【阪急沿線おしらべ係 第48回】
阪急電車の車内や正雀工場でも見かける「アルナ車両」ってどんな会社?

【2023年5月配信】

このコーナーでは読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。

今回は阪急電車と深い関わりがある会社について、こんな質問が寄せられました。

『阪急電車の車内に貼られたプレートや正雀工場の壁にも書かれている『アルナ車両』とはどんな会社か教えていただけませんか』。

「アルナ車両」は阪急沿線おしらべ係でも何度か取材させていただいていますので、ご存じの方も多いかもしれません。今回は阪急電車や路面電車を利用する方にとって関わりがある「アルナ車両」の全容をより深く知るべく、さっそく調査に出かけました!
※新型コロナウイルス感染防止対策を行いながら、取材・撮影をしております。

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アルナ車両のアルナってどんな意味?どんな会社?

今回は取材で「アルナ車両」がある京都線・正雀駅近くの正雀工場にお邪魔しました。


アルナ車両は阪急電鉄正雀工場の敷地内にあります

アルナ車両は阪急電鉄のグループ会社の1つで、2022年に創業20周年を迎えた会社です。主な事業内容は路面電車の製造や、阪急電車の車両の整備、リニューアル工事などで、132人の社員が在籍されているそうです(2023年4月現在)。

「アルナ」という社名の由来は、アルナ車両の前身であるアルナ工機から来ているそうです。
アルナ工機は、もともと兵庫県尼崎市北難波町にあったナニワ工機という工業製品の会社でしたが、その当時、鉄道車両や建築用アルミサッシを製造していたことから「アルミのニワ」でアルナ工機となったそうです。
ナニワ工機やアルナ工機は、阪急電車の車両も作られていたとか。


阪急電車の車内には「アルナ工機」のプレートが貼られている車両もあります

現在のアルナ車両は、路面電車の製造において国内シェアトップ!そのシェアを支えているのが、純国産で唯一の超低床路面電車「リトルダンサー」です。

ネーミングにダジャレ? リトルダンサー

超低床路面電車「リトルダンサー」は2002年に登場し、今年で21年目になる車両ブランドです。「リトルダンサー」とは、直訳すると「小さな踊り子」。踊り子のように、街を軽やかに進むことから名付けられたそうですが、実はこの「リトルダンサー」にはもう一つの意味が隠されていて、それは「小さな(リトル)段差(ダンサ)」というもの。車両と停留所の段差が小さいという、超低床路面電車の特長が表わされているんですね。

おしゃれに聞こえるブランド名「リトルダンサー」に、ダジャレの要素まで込められているところが何とも関西らしいですよね。


リトルダンサー生誕20周年の時に作られたリトルダンサー記念誌

「リトルダンサー」は床の高さが地面から30~35cm、渡り板(通称:パッタン)を使うとリトルダンサーの名前の通り停留所(駅)と車両との段差が約5㎝とかなり小さい!路面電車は、運転士さん1人で運行することが多く、車椅子をご利用される方など、お客様の乗り降りを補助する業務も運転士さんがすべて担当するそうです。


リトルダンサー記念誌の中表紙には、渡り板の設計図が

そんなときでも「リトルダンサー」は、車椅子用渡り板が取り付けられているので、乗り降りの補助がとてもスムーズにできるのだそう。


福井鉄道のリトルダンサーについたコンパクトで使いやすい渡り板(通称:パッタン) (提供:アルナ車両)

お客様にはもちろん、運転士さんにとっても利用しやすく工夫されているんですね。

国内12の事業者で採用されているアルナ車両の路面電車

アルナ車両の路面電車は、北は北海道・札幌から、南は九州・鹿児島まで納品されているそうです。超低床路面電車だけでなく、東京都交通局 東京さくらトラム(都電荒川線)のような床の高い路面電車も合わせると、現時点で12の事業者に採用されているとのこと。

ここでアルナ車両が今まで納入してきた超低床路面電車「リトルダンサー」の一部をご紹介します。

最初の車両は、2023年3月に営業運転が開始された福井鉄道のF2000形(愛称:フクラムライナー)。


福井鉄道のF2000形(愛称:フクラムライナー)リトルダンサータイプL (提供:アルナ車両)

リトルダンサータイプLの3車体連接の低床車両です。直線的なデザインに、福井の青い空と緑の大地をイメージしたラインカラーが目を引きますね。路面区間だけでなく鉄道線も高速で走ることができる、歴代のリトルダンサーの中で最も大型の最新鋭車両だそうです。高速で走るリトルダンサー、乗ってみたくなりますね。

次の車両は、2017年9月に営業運転を開始した愛媛県・松山市を走る伊予鉄道の5000形リトルダンサータイプSです。リトルダンサーの中で最も小さいタイプで、美しい流線形とオレンジ色の車体が松山の街に映えそうです。


伊予鉄道の5000形リトルダンサータイプS (提供:アルナ車両)

このタイプは、信頼性の高い既存の技術を用いながら、台車(車輪を支持し、車体を支える土台部分のこと)を運転台の下に設置することで車内の低床化を実現したそうで、アルナ車両の低床車両としては、最も多くの両数が走っているタイプだそうです。

最後の車両は2013年8月に営業運転を開始した阪堺電気軌道の1001形(愛称:堺トラム)リトルダンサータイプUa。


阪堺電気軌道の1001形(愛称:堺トラム)リトルダンサータイプUa (提供:アルナ車両)

この路面電車も、3車体連接の低床車両ですが真ん中の車体には台車が無く、宙に浮いた100%低床構造が特徴とのこと。何か不思議ですね。また、堺の持つ歴史的なイメージを重んじて、車内のシートの柄は堺更紗(さかいさらさ)をモチーフにするなど、外部のカラーリングも含めて地域密着型のデザインになっています。これらが評価され、2017年度グッドデザイン賞を受賞されたそうです。

たくさんの賞を受賞してきた理由

リトルダンサーは、全部で9つのタイプがあるそうです。アルナ車両が開発した超低床路面電車は、上記のグッドデザイン賞のほか、主に技術的に優秀と認められる鉄軌道車両に贈られるローレル賞などをたびたび受賞しています。アルナ車両の技術力が高く評価されている証拠ですね。


アルナ車両の社内には表彰状や盾がいっぱい!

数々の賞を受賞してきたリトルダンサーと、他の車両との違いが何かを尋ねると「当初から実績のある技術を使って、社内で独自開発してきたことでしょうか」との答え。

他の車両メーカーの路面電車は、海外の技術を導入することが多いのに対し、長年の実績がある国産部品や技術を駆使して、新しい車両を生み出すアルナ車両は唯一無二ともいえる存在です。
路面電車は、自動車と同じ舗装された道路を走るためトラブルも多くメンテナンスが大変です。そのため部品の調達がしやすく、メンテナンスしやすい国産部品を採用するメリットは大きいそうです。

納入先の各鉄道事業者にとっての使いやすさは、利用者であるわたしたちの利便性向上にもつながります。こういったことがアルナ車両が路面電車の国内シェアナンバーワンになる理由なのですね。

阪急電車の整備や改造も行っています!

路面電車の製造で国内シェアナンバーワンを誇るアルナ車両ですが、阪急電車などグループ会社の電車の整備や改造なども行っているそうです。


阪急電車などグループ会社の電車の整備や改造なども行っています (提供:アルナ車両)

阪急電車は、一定の期間や距離を走るごとに、国土交通省の省令で決められた全般・重要部検査という自動車でいう車検を受ける必要があります。アルナ車両では、全般・重要部検査だけでなく座席の生地の張り替え、クッション素材の新調、クーラーなどの空調器、モーター、コンプレッサーなど、車両に搭載する機器の整備も行っているそうです。


電車のクーラーを整備している様子 (提供:アルナ車両)


かなり腕力が必要という、あの阪急電車のゴールデンオリーブ色の座席の生地を張り替えている様子 (提供:アルナ車両)

あの観光列車の改造もアルナ車両が手掛けています

阪急電車のリニューアル改造工事もアルナ車両が手掛けていますが、デビュー当時から「乗車券だけで、こんな豪華な車両に乗れるなんて!」と好評の観光特急「京とれいん 雅洛」。この改造もアルナ車両が担当していたそうです。

観光特急「京とれいん 雅洛」が誕生するまでの裏側などをおしらべ係で調査した記事はこちら
(前編)
https://cdn.hankyu-app.com/content/article/2019/article_sp01.html
(後編)
https://cdn.hankyu-app.com/content/article/2019/article_sp02.html

初めてだらけの観光特急「京とれいん 雅洛」

「電車の中に坪庭があるなんて!」と今でも乗るたびに驚いてしまう観光特急「京とれいん 雅洛」ですが、改造秘話などはあるのでしょうか。


2019年3月にデビューした観光特急「京とれいん 雅洛」 (提供:アルナ車両)

観光特急「京とれいん 雅洛」は、阪急電鉄から「京都気分を味わえる電車にしたい」というコンセプトが出され、それに基づいてアルナ車両がデザイン・設計・施工を担当したそうです。

京都出身のデザイン担当の方は「当時、京都では町家を保存・リノベする動きが多くありました。京都の町家はうなぎの寝床。それって電車と共通しているんです」と話してくれました。
間口が狭くて奥行きの長い京都の町家と、細くて長い電車という共通項を見つけ、そこからアイデアを膨らませ、デザイン担当の方と設計担当の方とでどのように実現するかを相談して進めたそうです。


観光特急「京とれいん 雅洛」の車内にある障子 (提供:アルナ車両)

設計担当の方は「電車内に障子を採用したいと(デザイン担当者に)言われたときはどうしたものかと思いました」と笑います。

観光特急「京とれいん 雅洛」車内の障子も、和紙と木のように見えて実は樹脂素材の板とアルミ素材の桟なのだそう。「当時は、今まで見たことがない建具の本などたくさん参考にしました」とのこと。

その言葉に資材調達などを担当する生産管理担当の方は「もともと弊社は多品種・小ロットの車両製造が多いのですが、あの時は玉砂利とか苔(こけ)とか、今までの車両製造でも使ったことがないものが多かったですね」とうなずきます。

ほかにも観光特急「京とれいん 雅洛」のエピソードとして「車内に丹後ちりめんの暖簾(のれん)があるんですが、暖簾の図面を描いたのも車両設計をやっていて初めての経験でした」と多くのエピソードが飛び出しました。

お客様が求めるものに、形をつける

このように多品種・少量生産の車両製造も手掛けるアルナ車両の仕事内容は、多岐にわたります。


たくさんのエピソードを聞かせてくださったアルナ車両のみなさん

「車両の設計業務って答えのないパズルみたいなものです。自分の引いた線が形になり、考えた電車が完成して走行するとうれしくて。できた車両は、子どもというより、よく知っている知り合いのような気持ち。街中で見かけると“がんばってるなぁ”とつい見守ってしまいます」と設計担当の方は言います。

生産管理担当の方も「多品種・少量生産ということは、それだけ単価があがってしまうんです。そこをいかにコストとのバランスをとって製造できるかがわれわれの腕の見せ所。鉄道事業者さんが求めるものを、形にするのが私たちの仕事です」と話してくれました。

車両メーカーであるアルナ車両には、こういった思いを持った方々がいるからこそ便利でかっこいい路面電車ができることを知る取材になりました。

まとめ

阪急電車の車内でもみかける「アルナ車両」がどのような会社かお分かりいただけましたでしょうか。今回、アルナ車両にお伺いし、車両のデザインや設計などに携わる方々から直接話を聞くことで、日々どのように感じながら車両製造や改造にかかわっておられるかがわかり、改めて路面電車や阪急電車の車両に愛着を感じることができました。
また観光特急「京とれいん 雅洛」の話になると、「それだけで2時間は語れるね」とみなさんがにこやかに話されていたのも印象的でした。このお話を聞くと、改めて観光特急「京とれいん 雅洛」に乗って、車内のすみずみまで見たい気持ちでいっぱいになりました。
ぜひみなさんも国内各地の路面電車や、観光特急「京とれいん 雅洛」に乗って、細部に宿る職人のこだわりを見つけてみてはいかがでしょうか。

観光特急「京とれいん 雅洛」公式ホームページはこちら
https://www.hankyu.co.jp/kyotrain-garaku/

アルナ車両のホームページはこちら
http://alna-sharyo.co.jp/

最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。阪急沿線おしらべ係では、阪急電鉄だけでなく、阪急沿線アプリで連携しているグループ会社(能勢電鉄、阪急バス、阪急タクシー)に対する質問も受け付けています。

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