【阪急沿線おしらべ係 第66回】
電車の屋根にあるパンタグラフって何種類あるの?

【2024年11月配信】

このコーナーでは読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。

今回は読者の方からお寄せいただいたこちらの質問がテーマ!

阪急電車のパンタグラフには、「く」の字形のものと菱(ひし)形のものがあります。その違いはなんでしょうか?

電車の屋根についているパンタグラフ。

そのパンタグラフに、いろんな種類があることに気づかれた読者の方。どんな違いがあるのか、そもそもパンタグラフはどんな役割を担っているのでしょうか?

パンタグラフにまつわるあれこれを、調べてきました!

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パンタグラフの役割とは?教えてもらいに、正雀工場へ!

パンタグラフとは、線路上方に張り巡らされた架線から電車に電気を取り込むための集電装置です。電気を動力とする電車の安定運行に欠かせない重要な役割を担っています。

車両のことは正雀工場で働く現場のスタッフが詳しい!ということで、パンタグラフについてもっと詳しく教えてもらうため、正雀工場へやってきました!

お話を伺ったのは、
阪急電鉄株式会社 技術部 工場課制御係の西本圭佑(にしもとけいすけ)さんと、アルナ車両株式会社 第2事業部 工場第1課係長の井上保(いのうえたもつ)さんです。


(左から)井上さん、西本さん

お二人の所属する会社は異なりますが、パンタグラフの整備を行う業務を担当されています。
西本さんは、車両の屋根にパンタグラフが設置された状態で目視などにより異常がないかを確認する在姿(ざいし)検査を担当、井上さんは車両から取り外されたパンタグラフを分解し、部品の点検交換などのより精密な検査を担当されています。

パンタグラフはこんな仕組みになっていた!

まずは、パンタグラフはどのような仕組みになっているのか、お二人にお聞きしました。

「阪急電鉄には22の変電所があり、この変電所から架線に電気が送られます。架線と接する面は『カーボン系すり板』と呼ばれ、電気の受け渡しを行う重要な役割を担っています」

と西本さん。

カーボン系すり板。長さは30センチメートルほどある

カーボン系すり板は、カーボン(炭素)と銅を複合させたもので、カーボンが架線とすり板を滑らせるための潤滑剤となるそうです。
また、このすり板が取り付けられているパンタグラフの上部は、「舟」と呼ばれているそうで、よく見ると舟の部分に数か所、バネが取り付けられていますね。


舟の部分

井上さん、なぜこんなにもバネがあるのでしょうか。

「パンタグラフは『主ばね』と呼ばれる大きなばねによって、下から押し上げられて架線と接触しています。そして、これらの小さなバネよって電車が走っているときの細かな振動が吸収され、舟の水平が保たれるようになっているんですよ」

パンタグラフが架線から離れないのは、こうした仕組みになっているからなんですね!

そして、すり板から取り込まれた電気は、パンタグラフの枠を通り、パンタグラフの下部に接続したケーブルから車体の配管を通って、電車を動かすための電源として、各装置へと送られるそうです。


目に見えない電気。ここをたどって取り込まれる


電気は管を通って車両の下の制御装置へ

また、パンタグラフを上昇させたり降下させたりするためのスイッチは運転席に備えられており、乗務員が操作を行っているそうです。 なお、架線の高さの変化に対しては、パンタグラフの主バネと呼ばれる部品で上下するようになっています。

というわけで、淡路駅付近にあるJR線の高架下に行ってみると、


JR線と交差する阪急京都線(淡路駅付近)

高架下をくぐる際に、パンタグラフの高さが徐々に低くなっていく様子を確認することができました!

パンタグラフにはどんな種類がある?

では、本題のパンタグラフの種類について。
どんな種類があるのか、正雀工場に向かう前におしらべ係も駅で観察していました。

最初に見つけたのは菱形のパンタグラフ。パンタグラフと聞いて思い浮かべるのはこの形です。


淡路駅で見つけた3300系車両

続いてこちら。菱形のパンタグラフと似ていますが、よりコンパクトに見えます。


7300系車両

しばらくすると、「く」の字型のパンタグラフを乗せた電車も発見しました。ずいぶんスッキリして見えます。


9300系車両

質問をいただいた読者の方がおっしゃるように、確かに菱形と「く」の字形のパンタグラフがあるようです。

井上さんと西本さん、おしらべ係では3種類のパンタグラフを見つけたのですが、どんな違いがあるのでしょうか?

「1つ目は『菱形パンタグラフ』ですね。昔からあるオーソドックスな形で、現在は3300系で使われています。2つ目は『下枠交差形(したわくこうさがた)パンタグラフ』と呼ばれるもので、5100系から8300系で使われており、阪急電車では一番多く使われているタイプです。3つ目は『シングルアーム形パンタグラフ』で、阪急電車では最新の2300系のほか、1000系、9000系、神戸線5000系などに使われているものです」

と井上さん。

※阪急電車の車両詳細は、公式ウェブサイト内の「車両図鑑」にて紹介しています。
こちら


菱形パンタグラフ


下枠交差形パンタグラフ


シングルアーム形パンタグラフ

左から、菱形パンタグラフ、下枠交差形パンタグラフ、シングルアーム形パンタグラフ

井上さんがさらに詳しく教えてくれました。

「なぜ3種類あるかというと、パンタグラフを作っているメーカーの技術が進歩したことで、小型軽量化が進んだからです。阪急電鉄では、新形式車両の導入やリニューアルのタイミングに合わせて、新しいパンタグラフを導入しています」

そのため、車系によって、菱形パンタグラフ、下枠交差形パンタグラフ、シングルアーム形パンタグラフと異なっているんですね。


たたまれた状態のシングルアーム形パンタグラフ

パンタグラフの大きさを比較してみると、

菱形パンタグラフ……全長(伸ばした状態)3メートル、台枠幅1.25メートル
シングルアーム形パンタグラフ……全長1.85メートル、台枠幅0.6メートル

と、ひとまわりほどコンパクトになっています。

余談ですが、1921(大正10)年、初の国産パンタグラフ(東洋電機製造株式会社製造)が導入されたのは、阪神急行電鉄(阪急電鉄の前身の会社)だったそうです。

パンタグラフを長持ちさせる工夫


パンタグラフはこんなにも上昇する

すり板は、架線と接触を繰り返すことで摩耗するため、使用限度を過ぎる前に神戸・宝塚・京都の各線にある車庫で新しいものに交換されます。

「このすり板の摩耗が、一か所に集中しないようにする工夫があるんですよ」と井上さん。

ヒントはパンタグラフではなく、架線。

「実は、架線は線路に対してゆるやかに左右にジグザグになるように設置されています。そうすることで、すり板と架線の接触面を分散させることができるんです」

それは知らなかったです!改めて、架線を確認してみることに!
わかるでしょうか?


大山崎駅付近

普段、何気なく電車を利用する私たちには想像が及びませんが、様々な技術と工夫が生かされているのですね。

※架線に関する過去のおしらべ係の記事はこちら
【阪急沿線おしらべ係 第36回】宝塚線十三~三国駅間の車窓から見える電柱とは?

パンタグラフの整備・点検ではどんなことをするの?


パンタグラフの検査などが行われている正雀工場内部

西本さんと井上さんの普段のお仕事もお聞きしてみましょう。

西本さんは11人のメンバーで在姿検査を担当。
決められた検査項目に従って、目視や触指で異常の有無を確認。必要に応じて調整を行います。安全を維持するための大事な業務です。


屋根上での作業の様子

「大きな電車が安全運行するためには、ミリ単位で調整が必要です。井上さんに助けてもらうことも多いです」

と西本さん。


パンタグラフの上げ下ろし作業には、車体の移動に使うクレーンを使います

井上さんは、6人のメンバーで部品の点検交換などを担当。
重さ100キログラム以上のパンタグラフは、クレーンで車体から下ろした後、大きな機械でまるごと洗浄されます。さらにこれ以上できないところまで部品を細かく分解し、ひとつひとつの部品を洗浄、研磨、塗装、必要に応じて交換します。

「旧来からの菱形パンタグラフに比べて最新のシングルアーム形パンタグラフは、使われる部品の数が少なく、我々もメンテナンスがしやすくなりました」と井上さん。パンタグラフの技術発展によって、井上さんたちの作業性も向上しているそうです。


舟と同じ重さの重りを付けて、バネの圧力が規定の数値に収まっているか、ばねばかりで確認する井上さん

分解した部品は、再び組み立てて動作の確認を行います。その時、規定通りの動きをしない場合もあるそう。

「そんなときは、職場のメンバーでこれまでの経験と知識を集結させて解決します。チームワークを実感する時ですね」

と、西本さんの話に井上さんも頷きます。


きれいに塗装されたパンタグラフの組み立て作業

安全運行を陰で支えるお二人の仕事。
井上さんがやりがいを感じるのは、

「自分がメンテナンスに携わった車両が走っているのを見かけた時です。ひそかに誇らしくなりますね」

とのこと。


阪急レールウェイフェスティバルで展示されたパンタグラフ

西本さんは、

「阪急レールウェイフェスティバルでお客様に楽しんでもらおうと、パンタグラフの操作体験ができる装置を製作しました。普段は工場の中で仕事をしていますが、目の前でお客様が喜んでいらっしゃる様子を見られた時は、うれしい気持ちになりました」

西本さんが目じりを下げてそう語ったのが印象的でした。

まとめ

パンタグラフの仕組みからメンテナンスまで、電車が電気を取り込む仕組みを知ることができました。

最後に少しご紹介した「阪急レールウェイフェスティバル」に、興味を持った方がいらっしゃるかもしれません。
次回のおしらべ係は、10月に開催された「阪急レールウェイフェスティバル」の様子をレポートする予定です!お楽しみに。

最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。阪急沿線おしらべ係では、阪急電鉄だけでなく、グループ会社(能勢電鉄、阪急バス、阪急タクシー)など阪急沿線に関する質問も受け付けています。

みなさんも気になるものや知りたいことが見つかった時は、ぜひ「阪急沿線おしらべ係」まで質問をお寄せください。

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