【阪急沿線おしらべ係 第36回】
宝塚線十三~三国駅間の車窓から見える電柱とは?

【2022年5月配信】

このコーナーでは読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。

今回は宝塚線で車窓から見える電柱や電線について読者の方からこんな質問をいただきました。

「宝塚線十三~三国駅の高架区間のそばに、短い区間ですが地上に阪急の支柱、電線がチラッと見えます。何の施設でしょうか」

この質問をいただいて、調べたところ完全非公開の阪急電鉄の施設であることが判明!
関係者しか知らされていないというこの施設に、今回特別に取材の許可がおりたのでさっそく調査に出かけました!
※完全非公開の施設のため、見学は受け付けておりません。

今回、特別に取材させていただいたのは阪急電鉄技術部電力課電力係の本薗尚幸(もとぞのなおゆき)さん。電車に高電圧の電気を送るための架線や、それを支える電柱などの電力線路設備関係のお仕事に30年以上携われているスペシャリストです。
※新型コロナウイルス感染防止対策を行いながら、取材・撮影をしております。

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電車から見える電柱や電線は何のための施設?

この区間は電車が高架の上を走っているため、地上にある電柱は低く、かなり注意深く見ていないとわかりません。電車からだとドアのそばに立っていないと見えないほどです。また、阪急電鉄といった社名表記なども特にありません。
実はこれらは、阪急電鉄の電力線路設備の教育設備なのだそう。

教育設備とは…


(2022年4月教育風景)


(2022年2月教育風景)

この教育設備は、阪急電鉄に入社し、技術部電力課に配属となった若手社員を中心とした教育を行う設備です。
入社1年目には3カ月間・約100時間ひたすら電柱の昇り降りを繰り返す昇降訓練も行うのだとか。

「電車から少し見えているのは、線路横にある教習用の電力線路設備の電柱や電線ですね。阪急電鉄で実際に使われている設備と同じ特別高圧線(交流22,000ボルト用)、き電線(直流1,500ボルト用)、電車線(直流1,500ボルト用)の電線と、それを支持する電柱や桁、電線と電柱を電気的に絶縁する碍子(がいし)などがあります。
(教育設備のため実際に電気は流れていません)。
電車線は、コンパウンドカテナリ方式と呼ばれる神戸本線、京都本線に採用している電車線になります。」

「また、宝塚本線や嵐山線、甲陽線などの各支線で採用しているシンプルカテナリ方式も設置しています。それぞれ構造が違っており、列車速度などに応じて使い分けています。」と本薗さん。

いつから教育設備はあるの?


(1985年着工当時)

この教育設備の構築に着工したのは1985年。鉄道設備の近代化が求められ、電力線路設備の充実が図られる一方で、設備の改良などで作業頻度が少なくなり、若手社員の技術力の低下が懸念されていたことがきっかけでした。また、それまでも数カ所に分散した小規模な模擬設備で訓練していましたが、一カ所でしっかり学べる施設が求められていたこともあります。いくら技術が発達しても、最後は“人”が鉄道の安全を守っているということですね。

この教育設備を作ることも若手社員の教育の一環と考え、自分達で土を掘って電柱を建て、電線を張り1988年に完成しました。

現在の施設になったのは、1998年。老朽化した木製の電柱を、すべてコンクリート製の電柱に建て替えました。この時も重機を使用する作業以外は、指導者の元、主に若手社員で実施したというから驚きます。

電車から見えていた電柱や電線ではどんな訓練が行われているの?

列車も通らず、電気も流れていないので、設備の取替作業訓練や、不測の事態を想定した設備の復旧作業訓練を行っているのだそう。


(2018年教育風景)

「この仕事はかなりハード。電柱は一番高い位置で約10m、作業に使用する絶縁梯子は全長が7m・17段あります。体力はもちろんですが、重いものを持って梯子上で作業などができる筋力や冷静さ、正確性なども求められます」と本薗さん。

作業に必要な体力作りはもちろん、筋力トレーニングの指導もされているのだそう。想像以上のハードな仕事内容に驚かされます。

「入社してすぐは、電柱の昇り降りだけする訓練を繰り返しますが、その後は電車線に電気が流れている状態を想定し、絶縁梯子を使用した教育にステップアップします。先輩に交じって部品の交換や、不測の事態を想定した復旧作業の訓練も行っていますよ」とのこと。

いつも阪急電車が走っている姿が見られるのは、これらのたゆまぬ訓練や教育があるからなのですね。

訓練や教育の成果を見せる大会も


(2018年技能競技大会の様子)

学ぶだけではなく、技術力の向上を披露する機会として定期的に、技能競技大会を実施しているのだそう。こちらは2010年より実施されていて、2022年2月に6回目が開催されました。


(2022年技能競技大会の様子)

本薗さんいわく、「この技能競技大会では、神戸線係・宝塚線係・京都線係に分かれて様々な技能を競います。優秀賞には賞状やトロフィー等の授与もあるので、日々の訓練の成果を見せようとみんな真剣になりますし、誰もが輝いて見えますね。」
学ぶだけではなく、皆に披露することで、緊張感を持った上で、より技術が磨かれ、各々の技術力の向上が望めそうです。

基本やルールをしっかり守ることが大切

こちらの教育設備では、実技だけでなく座学なども行われ、年間80回もの訓練や教育を行っているんだそう。

「電気は目に見えないもの。そんな目に見えない電気が流れている所での作業や高所での作業が多いので、やっぱり安全が第一なんです。こういった教育設備などで訓練を行うことで、基本動作をしっかり身に付け、列車との接触・感電・高所からの墜落などの重大な災害を起こさず、鉄道の安全な運行を守っていければ」という本薗さんの力強い言葉に安心し、阪急電車が今日も安全運行できていることを知れる貴重な取材となりました。

なお、訓練の取組については、阪急電鉄のホームページでもご紹介していますので、是非ご覧ください。
https://www.hankyu.co.jp/anzen/training/index.html

まとめ

電車を利用していても、「この電車は電気が流れているからスムーズに動いていて…」ということを意識することは少ないと思います。今回のお話を伺って、電気という目に見えないものを上手に利用し、きちんと保守されているからこそ、安全に安心して電車を利用できるんだなと改めて実感することができました。

最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。阪急沿線おしらべ係では、阪急電鉄だけでなく、阪急沿線アプリで連携しているグループ会社(能勢電鉄、阪急バス、阪急タクシー)に対する質問も受け付けています。

みなさんも気になるものや知りたいことが見つかった時は、ぜひ「阪急沿線おしらべ係」まで質問をお寄せください。

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