【阪急沿線おしらべ係 第63回】
大都会・梅田のど真ん中、阪急三番街に鎮座する「北向地蔵尊」とは?

【2024年8月配信】

このコーナーでは読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。
今回は、読者の方からこんなお便りをいただきました。

紀伊國屋書店 梅田本店の西側にあり、ショッピングの合間などに多くの人が参拝している北向地蔵尊(きたむきじぞうそん)。その歴史やお祭りを調べてください。

北向地蔵尊の近くをよく通る阪急沿線おしらべ係員も、なぜ阪急三番街の中にお地蔵さんが祀(まつ)られているのだろう?と不思議に思っていました。
詳しく調査するべく、北向地蔵尊に縁の深いお二人に取材させていただきました。

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いざ、北向地蔵尊に向かいます!

阪急三番街のどこにお地蔵さんがあるのか?という方のために、まず阪急大阪梅田駅から北向地蔵尊に向かうルートを案内します。スタートは、分かりやすいよう大阪梅田駅1階改札外コンコースから。大阪梅田駅を背にして、向かって右へ進みます。


大阪梅田駅1階改札外コンコース。大阪梅田駅や紀伊國屋書店を背にして、向かって右手へ

そのまま、まっすぐ進みます。


右手に紀伊國屋書店を見ながら直進

つきあたりを右に曲がると「地蔵横丁」があり、その入口に建つのが北向地蔵尊です。


紅白の提灯が、北向地蔵尊の目印

まさに大都会・梅田のど真ん中!ビルの中心部に突如現れるお地蔵さん、気になっていた方も多いのではないでしょうか?


北向地蔵尊は阪急三番街南館1階にあります

取材にご協力くださった1人目は、北向地蔵尊のお世話役を務める任意団体「阪急三番街北向地蔵尊奉賛会(ほうさんかい)」役員の三島 保(みしま たもつ)さん。
三島さんは、1946年生まれの78歳、生まれも育ちもずっと梅田。祖父の代から数えると、梅田の地に暮らして150年ほどになるそうです。


三島さんにとって北向地蔵尊は、生まれた時から身近な存在

「私が子どもの頃に体調を崩した際、祖父が北向地蔵尊にお参りしたら、たちまち快方したそうです。祖父から『お地蔵さんに助けられたのだから、お前が生きているうちは、北向地蔵尊を大事にしなさい』と言われて育ちました」と話す三島さん。


提灯は阪急電鉄が奉納したもの

梅田東連合振興町会会長や芝田商店会会長をはじめとする、複数の地域団体の役員も兼任している三島さん。普段から梅田のまちの美化や治安向上、地域活性化などに精力的に取り組んでおられます。
まさに梅田のまちを知り尽くす生き字引のような存在の三島さんに、北向地蔵尊の歴史をお聞きします。

北向地蔵尊の歴史と梅田の変遷を辿る

まずは北向地蔵尊の由緒をお聞きします。
「 北向地蔵尊の始まりは1891年。今から約130年前ですね。当時の地主・仲谷弥三兵衛(なかたにやさべえ)氏が畑を地ならしした際、自然石に刻まれたお地蔵さんが出土しました。それを1893年、仲谷氏が祭主となり、北向きにお堂を建立して祭祀したのが、北向地蔵尊の起源と伝わります」とのこと。
ちなみに阪急梅田駅(現 大阪梅田駅)の開業は1910年のため、当時国鉄(現 JR)大阪駅はありましたが、まだ阪急の駅はなかった頃ですね。


三島さんの会社の事務所にて過去の地図や文献を見ながら教えていただきました

それから北向地蔵尊は、何度か移転しています。三島さんのお話や文献をもとに、時系列をまとめました。下記のマップと照らし合わせながらお読みください。


大阪市北区梅田東連合振興町会ウェブサイト(https://umeda-higashi.com/kitamukijizou/jp.html)より一部抜粋、加工

北向地蔵尊の移転沿革

  1. ① 1893年に祭祀が始まった当初は、現 ヨドバシ梅田の場所にあったとされる。
  2. ② 年代不詳だが、何らかの事情で、現 大阪新阪急ホテルの場所に移転。
  3. ③ 1964年の大阪新阪急ホテル開業に伴い、少し東側(現在地の近く)に移転。
  4. ④ 1966年から阪急梅田駅の移設拡張工事が始まり、1969年に阪急三番街が開業。同年10月12日、地元の有志による盛大なる式典のもと、北向地蔵尊は現在地に鎮座(ちんざ)される。
    この時、阪急三番街のテナントが中心となり「阪急三番街北向地蔵尊奉賛会」を発足。現在に至る。

北向地蔵尊が、様々な変遷を経て今もなお梅田に鎮座しているのは、お地蔵さんを信仰する人々の強い思いがあってのことなのでしょうね。

全国でも珍しい、人々に寄り添う北向きのお地蔵さん

北向地蔵尊がどのようなお地蔵さんなのかも伺いました。
三島さんによると「北向地蔵尊は、願い事をよくきいてくれる、願(がん)が強いお地蔵さんといわれます。とてもやさしいお顔で、昔からファンが多いですよ」とのこと。


一願成就のお地蔵さんなので、願い事は1つです

全国でも珍しく、お地蔵さんが北を向いていることも特徴です。
風水では、北の方角は悪い気が吹きだまるところとされており、中国では「天子南面(てんしなんめん)」といい、皇帝や王侯は北に座し、南を向いて政治を執るという考え方があります。そのような背景からか、お地蔵さんは一般的に南を向いているのが大半です。
そんななかで北向地蔵尊は、人々に寄り添い、願いや悩みを聞き受けて参拝者を救う思いから、あえて人々の下座となるよう北向きに配されたといわれています。


「おん。かかかびさん。まゑい。そわか。」と3回か5回か7回唱えて拝みます

「1888年頃の地図によると、JR大阪駅の北側一帯(現 うめきたエリア)に『梅田墓地』という大きな墓地があり、そこに葬られた人々を見守ってほしいとの願いを込めて、お地蔵さんを北向きに祀ったとの説もあります」と三島さん。


祠(ほこら)の後ろに回ると、お地蔵さんの背中や足元にあたる部分の塗装がはがれています。参拝者がお地蔵さんへの願いを込めてよく触るからなのだそう

北向地蔵尊は今も昔も、人々の心に寄り添って、梅田のまちを見守ってきてくれたんですね。取材を通して、お地蔵さんがぐっと身近な存在に感じられました。

昔から変わらず続く、北向地蔵尊の伝統行事

北向地蔵尊についてさらに詳しく調査するため、阪急阪神ビルマネジメント SC第一(梅田)営業部 調査役 兼 阪急三番街商店会事務局 次長の美馬孝宣(みまたかのぶ)さんにも取材させていただきました。
美馬さんが所属する阪急三番街商店会事務局は、約10年前から、阪急三番街北向地蔵尊奉賛会の事務局としての役割を担っているそうです。


美馬さんは北向地蔵尊の日常的な維持管理、行事の運営、事務手続きなどを担当

「北向地蔵尊では、毎月24日に『月並祭(つきなみさい)』が行われます(10月は例外的に、北向地蔵尊が現在地に遷座した日と同じ10月12日に『遷座祭』として実施されます)。当日は10時から大阪市北区の真言宗太融寺(たいゆうじ)のご住職によるお供養が行われ、その後ご住職の法話をお聞きします。所要は約20分、どなたでも参列できます」と美馬さん。


北向地蔵尊の年間行事

8月は特別に、23日・24日の2日間にわたり、お盆の行事が行われます。
23日は「護摩供養祭(ごまくようさい)」。年に一度のこの日だけは、和歌山県熊野本宮大社から熊野修験道(しゅげんどう)ご一行に来てもらい、護摩焚きを行います。護摩木の煙にくぐらせて祈祷したお守りは、後日参拝者に授与されます。
24日は「盂蘭盆供養祭(うらぼんくようさい)」。通常の月並祭と同じく、真言宗太融寺(大阪市北区)の住職によるお供養が厳かに営まれます。


8月の護摩供養祭でご祈祷した数量限定のお守りは、お心づけの料金で後日授与されるそう

8月の護摩供養祭、盂蘭盆供養祭は、従来だれでも参列できる行事でしたが、コロナ禍以降、今年も関係者のみで小規模に執り行われる予定。お守りは今年、9月24日の「月並祭」と10月12日の「遷座祭」の時に授与される予定です。

いつもきれいな北向地蔵尊。実は毎日お手入れされています

北向地蔵尊はいつ訪れても、きれいにお手入れされている印象です。


北向地蔵尊にはゴミひとつ落ちていません

美馬さんいわく「日々のお手入れは、お守りさんと呼ばれる、阪急電鉄OBの3名にお願いしています。毎日交代制で5時過ぎから10時頃まで、祠周辺の水まきや清掃、線香やローソクの補充、お花の入れ替え、お賽銭の管理などをしてもらいます」とのこと。


お線香やローソクも補充しています

時にはお賽銭箱にハズレ馬券を入れられたり、線香の灰をばらまかれたりと悲しい出来事もあるそうですが、「阪急三番街を守ってくださるお地蔵さんに、私たちも手を合わせると共に、これからも信者さんの参拝しやすい環境整備に努めていきます」と話す美馬さん。


お花は1~4日に一度は入れ替えているそう

北向地蔵尊のお賽銭は、その運営維持管理のみならず、あしなが育英会への寄付、日本ユニセフ協会を通じてのウクライナ難民支援、石川県庁を通じての能登半島地震の被災者支援などにも使われているそう。
北向地蔵尊の背景には、三島さんや美馬さんをはじめとする、多くの地域の方々のサポートとお地蔵さんへの感謝の思いがありました。

まとめ

近くをよく通るのに、普段気に留めていなかった北向地蔵尊。取材を通じて、北向地蔵尊が130年以上にわたり、人々の願いに寄りそう心の拠り所として、梅田のまちを見守ってくれていることを知りました。またその背景には、お世話役として北向地蔵尊の存続を支える地域の方々の姿もありました。
北向地蔵尊は、24時間、年中無休で参拝できます。みなさんもお出かけの合間に、ふらりと立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

あわせて、こちらの記事もチェックしてみてください。
阪急三番街の歴史についてはこちら
https://cdn.hankyu-app.com/content/article/2022/article_03.html
芝田商店会についてはこちら
https://www.shibata-shotenkai.com/
梅田にある7つの史跡を巡る歴史散歩についてはこちら
https://umedaeast.jimdofree.com/%E5%8F%B2%E8%B7%A1%E6%A1%88%E5%86%85%E6%9D%BF/

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