【阪急沿線おしらべ係 第62回】
阪急電車の運転士の仕事が知りたい!普段見ることのできないバックヤードにも潜入!!

【2024年7月配信】

このコーナーでは読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。

今回は、これまで読者の皆様から多数いただいていた質問をついに調査してきました!

阪急電車の運転士さんの仕事を詳しく知りたいです!

私たちにもっとも身近な鉄道の仕事の一つが電車の運転士。
運転士は、運転以外の時間は何をしているのでしょうか?その仕事の裏側を知りたいという方は多いようです。

そしてもう一つ「乗務助役」という仕事についても、質問をいただいています。

おしらべ係が皆様を代表して、この2つの仕事を取材してきました!

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駅のバックヤードに潜入!

今回の取材にご協力いただいたのは、阪急電鉄運輸部 京都線運輸課 運転係に所属する乗務助役の森下蓉子(もりしたようこ)さんと、現役運転士の松井優也(まついゆうや)さんです。


左から乗務助役の森下さん、運転士の松井さん

運転士として活躍した後、現在は乗務助役(乗務員〈運転士と車掌〉の監督職)として業務にあたっている森下さんと、現役運転士・松井さん。

早速ですが、桂駅のごあんないカウンターの横にある乗務員専用の出勤場所(休憩場所)に、特別にご案内いただきました。


一般の人が入ることのできないバックヤードにドキドキします!

まずは、運転士の松井さんの仕事を追ってみましょう!

出勤すると、最初に更衣室で制服に着替えます。


ロッカ―は個人ごとに用意されている

「ロッカ―には、予備の手袋やシャツ、消臭スプレーも常備しています。お客様と接する仕事なので、常に清潔に保つよう身なりには気を付けています」と松井さん。

ちなみに制服のネクタイは3柄あり、好きな柄を選んで良いそうです。

そういえば、乗務員によってネクタイの柄が違うなと思っていましたが、好みで選んでいいんですね!


松井さんは、名札に交通安全のお守りを付けて胸ポケットに入れているそう

着替えが終わって次に行うのは、運転時計の整正です。


SEIKO製の運転時計

「運転士と車掌は、一人につき一つ運転時計が貸与されています。出勤したら、事務所にある置き時計を基準に、自分の運転時計を秒単位できっちり合わせます。定時運行が求められる電車の運行に関わる仕事には、正確な時間を把握しておかなければいけないので」

と、松井さんが教えてくれました。
続いて、アルコールチェッカーで酒気帯び検査を行った後、首席助役(出退勤管理を担当する監督者)に出勤報告を行います。


響き渡る大きな声で出勤報告

松井さん「運転士・松井、系統○○、出勤しました!心身の状態、異常ありません!」

運転士は、名前、運転する系統番号、健康状態を告げ、首席助役は乗り組み(車掌)の名前や乗務にあたっての注意事項などを伝えます。

力強い声と、指の先まで神経を尖らせた気迫のある敬礼。見ているこちらも背筋が正されました。

運転士必携、 鞄の中身は?

さて、運転士はいつも鞄を持っているのを見かけませんか?
あの鞄の中には何が入っているのか、すごく気になります!

松井さんに、運転士に必需の携帯品を教えてもらいました。


これが運転士必携の道具!

机に並んだのはこちら!

  • ・社員証
  • ・印鑑
  • ・乗務手帳
  • ・列車運行図表(ダイヤグラム)
  • ・忍錠(乗務員室の鍵)
  • ・運転時計
  • ・運賃表
  • ・筆記具

社員証や書類の押印に使う印鑑 、先ほど整正した運転時計もあります。列車運行図表はいわゆるダイヤグラムのことで、びっしりと線図が描かれており、おしらべ係取材スタッフにはかなり複雑そうに見えます……。


かなり細かい文字が書かれているダイヤグラム

ほかに、お客様へのご案内に使う運賃表、列車運行にあたっての注意事項などが記された乗務手帳など、電車の運行に関わるものが必携となっています。

なお、忍錠は紛失しないようにベルトループに固定して携帯しているそうです。


勤務中は肌身離さない

「これ以外にもあるんです」と、松井さんはさらに運転時に役立つ道具を見せてくれました。


別のスタッフが作ってくれたものだそう

「運転時には、列車種別や駅の出発・到着時刻が書かれた表(運転士用スタフ)に対して、停車駅などを間違えないように指差し確認をします。その時に目印になるよう、このマグネットバーを使っています」
(どのように使うのかは後ほどの写真にあり)

こうした業務の中での知恵やちょっとした工夫は、先輩運転士から代々伝えられているそうです。

運転業務へ!

担当する電車の到着時間が迫ってきたら、入線するホームへ移動します。


対象を指差し、目で確認し、声に出して安全確認を行うことを「指差確認喚呼(しさかくにんかんこ)」と呼ぶそう

電車が入線してくると、前面の表示幕、標識灯、前照灯の異常の有無を指差しで確認。そして交代する運転士に異常の有無を確認した後、乗務員室に入ります。


適切にブレーキが動作するか確認

運転中の様子は、読者の皆様もご覧になったことがあるかもしれません。
運転士用スタフに記載の次の停車駅や時刻、また信号などを指差し、声に出して運転します。


駅に到着したら、窓から顔を出してホーム上のお客様の安全も確認します

松井さんにとって、運転士の仕事のやりがいはどんなところにあるのでしょう?

「運転していると、お子様に手を振っていただけるんですよ。喜ぶ姿を見られるのがすごくうれしいですし、やりがいに感じます!」

と、心温まるエピソードを微笑みながら紹介してくれました。
制服に身を包み、たくさんのお客様をのせて大きな車両を運転する運転士は、やはり子どもたちが憧れる格好良い存在なんですね!

「それと、電車の速度を落とすところから停車するまで、所定の停止位置に衝動なく止まれるとうれしいです」

運転技術の習熟には“感覚”で理解するという、言葉では表現しにくい部分があります。
実は、電車を運転する際、車両によって個別の“クセ”が多少あるそうで、その日の天候によっても運転の感覚が微妙に異なることがあるとか。これは電車以外でも、乗り物を運転する方なら何となくわかることかもしれません。
運転士は知識・技能はもちろん、その感覚を日々磨き、運転技術の向上に努めているのです。


先ほど松井さんが持っていた蛍光色のマグネットバーが活躍中!

こうした運転の“感覚”は、運転士になる前に教育を受ける様々な実務研修(社内では見習と表現)の時から磨いていきます。
実務研修では、現場での教育を任された「指導運転士」と行動を共にして、机上では習得しきれない技術や生きた知識をマンツーマンで教えてもらうそうです。
ちなみに松井さんは今年、指導運転士に任命されたそうです!

どうやって運転士になるのかは、過去のおしらべ係の記事をご覧ください。
【阪急電車おしらべ係 第29回】運転士になるための訓練とは?

運転士のお腹を満たす、通称「赤弁(あかべん)」とは!?

運転には集中力と的確な判断が必要なため、休憩時間にしっかり休むことも大切な任務の一つ。

ではその休憩時間を、運転士はどのように過ごしているのか気になりますよね……!


松井さんと、お気に入りのドリンクを飲んで寛ぐスタッフ

「休憩時間は事務所の休憩所で過ごしています。先輩や同僚・後輩と、とりとめのない会話を楽しんでいますね」

と、松井さん。
運転中は凛々しい表情だった松井さんの顔も緩んで、和やかな雰囲気です。休憩中のほかの乗務員も、新聞を読んだり、お茶を飲んだり、思い思いに過ごされていました。


アットホームな雰囲気の食堂

また、休憩室の隣には食堂も完備されています。
冷蔵庫の中には、勤務に合わせて希望者が注文したお弁当が入っていました。


この日の朝ごはんのメインは塩サバ

塩サバ、ハンバーグ、牛カルビ丼、ハッシュドビーフなど、日替わりのお弁当は管理栄養士が考えたバランスの良い献立で、食堂の掲示板には2週間分のメニューが掲示されています。

このお弁当、お弁当の箱が赤いことから、”赤弁”と呼ばれているそうです。赤弁については、阪急電鉄の公式YouTubeチャンネルで詳しく解説されています。
https://www.youtube.com/watch?v=dnjCvuw32ks

ところで松井さん。
電車は早朝から深夜まで動いています。運転士には泊まり勤務があると思うのですが、どこで寝泊まりしているのでしょうか??

「事務所の中ですよ。今回は特別に案内しますね」

そう言う松井さんの後を追って、建物の上階へ向かいます。

扉を開いたら、噂に聞くアレがあった!

階段を抜けると、仮眠室のあるフロアに到着しました。
入口で靴を脱いで廊下に進むと、ずらりと扉が並んでいます。


扉に貼られた部屋番号

訪れたのは午前9時。乗務員の一日はすでにスタートしているため人の気配はなく、フロアはしんと静まり返っています。
その1室に入ってみると……
3畳ほどの広さの部屋にベッドが1台。


いたってシンプルな室内

そして、床には時計のようなものと太いホースが見えています。
これは何でしょう?

「設定した時間になったら、背中の空気袋が膨らんでベッドごと体を起こしてくれるんです」

あ!それは噂に聞いたことのある、自動で体を起こしてくれるというベッドですね!!
阪急電鉄でも取り入れられているとは!

この道具は「定刻起床装置 」というそうで、アラームを鳴らさず体を起こしてくれるので、他の部屋で寝ているスタッフに迷惑をかけることがないという、画期的な道具!


最大で膨らむとこんな感じ!

おしらべ係取材スタッフがこのベッドを体験してみたところ……徐々に背中が反り返っていき、その違和感で目が覚めます!

ほかにも、事務所内にはシャワー室が用意されていて、安心して泊まり勤務ができるようになっているそうです。

乗務助役は何をする仕事?

松井さんのお仕事の様子はわかったのですが、森下さんの肩書き「乗務助役」は、一般的には聞き慣れない名称です。一体、どんな仕事なのでしょうか?


シルバーのホルダーは運転士の同期生とお揃いで作ったものだそう

乗務助役は、運転士の経験を十分積んだ後に就く役職で、乗務員の指導やサポートを行うのが主な業務です。
毎日の仕事は、前日の担当者からの引き継ぎにはじまり、乗務員の業務相談、添乗指導、緊急発生時の現場対応まで、幅広く現場の運営管理を行っています。


事務的な業務も乗務助役の仕事

「鉄道会社に入社したなら、現場の最前線で仕事がしたい」と、運転士を目指した森下さん。駅の営業スタッフ 、車掌、運転士と10年以上を経て乗務助役になり、現場ひと筋で経験を積んできました。


後ろポケットに入っている分厚いものは、列車のダイヤグラム

「乗務助役の仕事は、特に緊急時では迅速な判断が求められたり、各所との情報連携に気を張ったり、緊張感があります。ですが、乗務員が日々無事に乗務を終えられるように陰の立役者として現場を支えられていることに、やりがいを感じますね」

と、森下さんは微笑みます。

取材の日の朝、森下さんは通勤ラッシュの時間帯にホームに立ち、お客様が安全に乗車できるよう案内を行っていました。これも乗務助役の仕事の一つだそうです。


慌ただしい朝の通勤ラッシュ時、冷静にお客様の安全を守る

ホームに立つ森下さんの姿勢があまりにも良いので、気になってその理由を尋ねてみると
「趣味でランニングをしているからですかね?」とのこと。

「泊まり勤務で体力的にハードな部分はありますが、非番や休日を上手く利用してランニングに励んでいます。自宅から京都西山の山腹にある花の名所、柳谷観音も練習コースの1つ。アップダウンの道のりで脚が鍛えられます」

乗務助役も、運転士と同じくシフト制の勤務で、有給休暇やシフトをうまく組み合わせれば余暇の時間を長く取りやすいそう。


森下さんは今年のフルマラソンで3時間切りを達成したそうです

運転士や乗務助役の仕事は、早朝勤務や夜勤もありハードな仕事なのでは?と思いましたが、先ほど登場いただいた運転士の松井さんも「働きやすい環境」だと声をそろえます。

森下さんも松井さんも、責任感のある仕事を担いながらも仕事のやりがいを感じ、充実した毎日を送られている様子がうかがえました。

下記のリンク先では、今回ご紹介した運転士をはじめ、阪急電鉄の様々な仕事を紹介しています。
鉄道の仕事に興味を持った方は、ぜひご覧ください!

運輸現業職
https://dentetsu.hankyu.co.jp/jinji/urban/index.html

技術現業職
https://dentetsu.hankyu.co.jp/jinji/tech/index.html

事務営業職
https://www.hankyu-saiyo.com/%E8%A4%87%E8%A3%BD-%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0-1

まとめ

今回の取材では、お客様が普段目にされないバックヤードを見せていただきました!
バックヤードで寛ぐ運転士の“オフ”の表情と、運転中の“オン”の表情、どちらも知ることができ、運転士の仕事がより身近に感じられました。
そして初めて知った、運転士を支える乗務助役という仕事。大きなチームワークで、今日も阪急電車が安全に運行されているんですね。

最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。阪急沿線おしらべ係では、阪急電鉄だけでなく、阪急沿線アプリで連携しているグループ会社(能勢電鉄、阪急バス、阪急タクシー)に対する質問も受け付けています。

みなさんも気になるものや知りたいことが見つかった時は、ぜひ「阪急沿線おしらべ係」まで質問をお寄せください。

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