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【阪急電車おしらべ係 第29回】運転士になるための訓練とは?

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【2021年10月配信】

読者の皆さんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、TOKK編集部のトッコが調査する「おしらべ係」。

今回は、鉄道ファンならきっと一度は憧れるお仕事、運転士にまつわるこんな質問をいただきました。

「幼い頃なりたかった阪急電車の運転士さん。一人前になるまでに、どのような訓練を受けているのでしょうか?」

毎日たくさんのお客様を乗せて走る阪急電車。その運転士になるには、発車やブレーキなどの運転技術はもちろん、緊急時の対応など、覚えなければならないことが山ほどありそうです。

「将来は阪急電車の運転士になりたい!」という夢を抱いている子どもたちのためにも、運転士になる訓練がどのようなものなのか、早速調べに行ってきました。

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運転士の"学校"を見学

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担当者に取材を申し込んでみると、運転士になるための訓練は正雀車庫内にある「人材育成センター」と「教習所」で行われているとのこと。普段は見られない内部を、今回は特別に見学させていただきました。

始めに案内してくださったのは、第一教習係長の竹下さん。
「運転士になるには、まず駅での業務を行う営業スタッフの仕事を覚えることから始まります」

最初に座学を通じて社会人としての心構えを身につけ、接客の基本をしっかりと学習。そして券売機や精算機、改札機などの操作方法を、実際の機械を使って覚えます。

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また、お客様の様々なお困りごとに対応できるよう、あらゆるシーンを想定し、ロールプレイングを通じて営業スタッフとしての業務を一つひとつ習得していきます。

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そして、車いすをご利用の方など、お体の不自由なお客様が安心して乗車できるように介助することも、営業スタッフとしての重要な仕事です。

他にも、コンピュータを使ったお忘れ物検索や、目的地までの地図の出力など...。営業スタッフの業務はとても多岐に渡ります。

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こうして人材育成センターで約1カ月半学んだあと、学科試験・実技試験を受験します。合格すれば今度は現場に出て約1カ月、指導員にマンツーマンで業務を教わり、その後営業スタッフとして独り立ちすることになります。

営業スタッフの次のステップは?

「営業スタッフとして2年勤務すると、車掌になるための試験が受けられるようになります」

車掌になるために、まずは教習所で、運転取扱心得・鉄道電気・鉄道車両・信号線路・車内案内放送・運転シミュレータを使用した実技などの教育を受けます。

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実技では運転シミュレータを使い、スクリーンに映し出されるリアルな映像を見ながら、車内アナウンスや扉の開閉、運転士への発車合図などを覚えます。

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そして試験に合格すると、次は営業列車にて、約1カ月かけて実務見習が行われます。

「阪急電鉄では、営業スタッフも車掌も、実務見習はマンツーマンで行い、教わる側を"見習生(けんしゅうせい)"と表現します。そして見習生は指導員のことを"師匠"と呼ぶんです」

会社に"師匠"がいるというのは、なんだか芸能の世界みたいでユニークですね。

「"師匠"は厳しくもいつも温かく見守ってくださるとても大きな存在です。実務見習が終わってもずっと"師匠"と呼び続け、何かあるたびに相談に乗っていただいたり、アドバイスしていただいたり。こうした師弟関係は、阪急電鉄ならではの伝統ともいえます」

"師匠"の指導を約1カ月みっちり受けて、実務試験をクリアすれば、晴れて念願の車掌に。そして、車掌として3年の勤務を経て、ようやく運転士の受験資格を得ることができます。

運転士への道のりは続く

つまり、営業スタッフとしての2年の勤務を合わせると、どれだけ早くても入社から5年以上かかるということですね。では、そのあとどうすれば運転士になれるのでしょうか?

教えてくださったのは、第二教習係長(主任教師)の竹内さんです。

「まず学科教習を約4カ月、"師匠"によるマンツーマンの実務見習を約4カ月行います。救急救命の訓練、お体の不自由な方の介助訓練、また自然災害に向けての訓練など、幅広い内容について学びます」

学科教習では、教習所で運転の基本や規定を学び、そして運転シミュレータを使った実技の訓練を実施。

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実技の訓練では、教官がパソコンを操作して自然災害などの非常事態をシミュレーションし、見習生が正確に対応できているかどうかをモニターで確認します。

モニターの前にある膨大な資料は、見習生の運転技能に関するチェック項目です。こんなに細かく見られるなんて緊張しますね...。こうして教官が約4カ月、学科と実技の両面から指導を行います。

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その後、学科試験を受験して合格すると、営業列車にて“師匠”によるマンツーマンの実務見習が、約4カ月にわたり行われます。

こうして計約8カ月に及ぶ教習を終えて国家試験を受け、合格すれば運転士としての免許証が交付されます。これでついに、運転士として現場に立てることに!

営業スタッフ、車掌、運転士と、何度も試験を繰り返し、その都度、実務見習では"師匠"からマンツーマンの指導を受け、ようやく一人前になれるんですね。

「私たち教官はよく見習生に、運転士になることが目的なのではなく、お客様の命を守り、運転士としての職務を全うし続けることが目的なのだと話します」

なるほど。こうして"師匠"から技術だけでなく、運転士として大切な心構えを学んでいるんですね。

「運転士は普段、信号・踏切、線路、電線など、あらゆることに注意を払い、運転していますが、常に背中にお客様の存在を感じながら、職務を遂行しなければならないと伝えています。何よりもお客様の安全が第一だからです」

普段、何気なく乗車していた阪急電車。改めて運転士という職責の重さについて考えさせられました。

まとめ

訓練の内容を知るまで、運転士になるための道のりがこんなに長く大変なものだとは想像もしませんでした。

そして、それぞれのキャリアにおいて、マンツーマンで指導する"師匠"との師弟関係、その中で学ぶ使命感が、安全を守る土台になっていることがわかり、とても興味深い取材となりました。

ちなみに11月の半ば頃から、腕章をつけた指導員(師匠)と見習生が現場に出始めるそうなので、見かけたら心の中でエールを送りたいですね。