【阪急沿線おしらべ係 第58回】
阪急タクシーの新入社員研修では、何を学ぶ?

【2024年3月配信】

このコーナーでは読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。

以前、阪急タクシーの配車指令の裏側を調査したおしらべ係。
(記事はこちら⇒【阪急沿線おしらべ係 第37回】街中をたくさん走っている阪急タクシーの送迎依頼、どのように手配されているのか?

年中無休で稼動する阪急タクシーの舞台裏を知り、「そうだったのか!」と思うことばかりでした。今回は、

阪急タクシーの運転士さんは、どんな研修を受けて運転士になるんですか?

という質問をいただきました。
お客様を目的地へ安全にお送りするタクシー運転士になるためには、どんなプロセスがあり、どんな研修を受けるのでしょうか?
早速、阪急タクシーに潜入して、いろいろとお話を伺うことにしました。

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新入社員研修でプロとしてのスキルや自覚を養成

阪急沿線に9つの営業所、48の乗り場を持つ阪急タクシー。皆さんもご利用されたことがあるのではないでしょうか? 阪急タクシーには、約760人(取材時点)もの運転士が所属しているそうです。想像していたよりも多いことに驚きました。

タクシーの運転士になるには、お客様をお送りするために必要な国家資格である第二種運転免許の取得がまず必要とのこと。阪急タクシーでは入社時に第二種運転免許を持っていなくても、入社後、グループ会社である『阪急ドライビングスクール服部緑地』で取得することができるそうです。


ピカピカに磨かれた阪急タクシーの車体

第二種運転免許を取得後、新入社員は池田営業所(大阪府池田市豊島南)で新入社員研修を受けることになるのだとか。研修期間は、第二種運転免許の取得に必要な期間も含めて約1カ月半だそうです。


阪急タクシー池田営業所

新入社員研修を受ける運転士は「研修運転士」と呼ばれ、運転士と同様に毎朝アルコールチェックと健康チェックを受け、制服も着用するそうです。そうすることで、プロとしての自覚を養うのだとか。


毎朝のアルコールチェック

基礎知識、運転技術、車両の整備……内容が濃い研修

その研修運転士の研修を担当するのは営業部営業課の先輩社員3人。そのうちの1人、主任の齋藤淳司(さいとうあつし)さんは、入社後、運転士として6年活躍されたそうです。
「良いことも大変なことも、経験談が一番役に立つ」と、現場の経験を研修の中で伝えています。


教壇に立つ齋藤さん

研修には、座学と実際のタクシー車両を使用した実習、そして実技研修があります。
まず座学では、安全にお客様をお送りするための規律から、配車システムの仕組み、タクシーメーターの操作方法、お客様への言葉遣いなどの接遇まで、幅広い知識を身に付けます。


新入社員の教科書。こんなにも分厚い

そして、90%以上の正答率で合格となる社内の座学試験を受けるほか、府県のタクシーセンターでの講習や適性診断の受診もあります。

タクシー運転士になるにはたくさんの試験を受ける必要があるんですね。知りませんでした。

実際のタクシー車両を使用した実習では、車両の点検のポイントを習得する「整備研修」や「UD研修」が行われます。


洗車をしながら、車両の仕組みを学ぶ整備研修

「UD研修」とは「ユニバーサルドライバー研修」のことで、ご高齢のお客様や障がいのあるお客様など、すべてのお客様への接遇や介助スキルを向上させるために、ユニバーサルデザインの車両(ジャパンタクシー)を使って行われるそうです。


車椅子の操作方法も習得

UD研修の期間中、研修運転士たちは「お客様がタクシーから乗降する時には、道幅を確保する必要がありますね」や「シートベルトはどこからどこに通すんですか?」などと、研修運転士同士で会話しながら、様々なことを実際の車両を使って学ぶのだそう。

また、車両や機器の操作方法だけでなく、お客様への声のかけ方といった心遣いのポイントも学ぶそうです。


車椅子をしっかり固定して安全を確認

また実技研修には、バック研修があります。
車体の後部が長いセダン車を、バックでスムーズに車庫入れするのにはコツが必要。半日かけて運転テクニックを覚えます。


お手本を見せる奥谷さんの教習車

お手本を見せたのは、もう一人の研修担当で課長代理の奥谷孝(おくたにたかし)さん。まるで車と奥谷さんの体が一体化したかのような滑らかなハンドルさばきで、車がスルスルスル~と駐車スペースに吸い込まれるように収まりました。
思わず「おぉ!」と取材チームは驚き!

次に研修運転士が順番にトライしていきますが、なかなか苦戦している様子です。

ある研修運転士は、
「運転席からだと、障害物に当たってしまう!という感覚でも、車から降りて確認するとまだまだ余裕があったり。何度も繰り返して、体に覚え込ませるしかないです」
と話します。


障害物に当たらないか、恐る恐るハンドルを切る

車の運転に限らず“感覚”を人に伝えるのは難しいもの。研修担当のお二人は、ハンドルを切るタイミングやコツ、目線の位置を、具体的な事例や身振り手振りを交えて懸命に教えます。


熱心に教える奥谷さん

運転士に一番必要な能力とは?

タクシー運転士にとって、一番必要な能力ってなんでしょうか?

齋藤さんも奥谷さんも、それは「接客力」だと口をそろえます。

「例えば『○○病院に行ってほしい』と言われたら、それが病院の正面玄関なのか?救急の入口なのか? お客様の言葉から、お客様が本当に目指す場所を、周辺の道路状況も確認しながら、スマートに会話から聞き出していく力が求められます」

と齋藤さん。


営業所には、運転士の目に付く場所に接遇の言葉が掲げられている

奥谷さんも、
「お客様へのお声かけのタイミングも重要です。交差点の直前でお客様にお声がけして曲がることになったら、誰でも焦ってしまいます。わからない場合は余裕を持ってお聞きするなど、お客様が不安感を持たれないような運転操作と接客はとても大切です」

とその理由を説明します。

どんな対応をすれば、お客様を快適に目的地までお送りできるのか。接遇には、柔軟に対応する力、冷静に判断する力が必要ですが、そう簡単にできることではないんですね。

ロールプレイングで接遇スキルを磨く

そこで、接遇スキルを磨くために繰り返し行われるのがロールプレイング。

教室の片隅に置かれた、気になるこれ。


OBの方の手作り!

本物のタクシーと同様、メーターなどの機材やシートベルトが備えられた模擬タクシーで、接遇のロールプレイングに使っているものだそう。

研修運転士が1人ずつお客様役と運転士役になり、乗車時の挨拶から安全確認、目的地のヒアリング、精算、降車時の挨拶まで、一連の流れを練習します。


模擬タクシーの運転席

「領収書が出てくるまで時間がかかるから、先に領収書のボタンを押せば、お客様の待ち時間が短縮できそう」
「領収書は右手よりも、左手で取った方が動きがスムーズじゃない?」
と、少しでもお客様をお待たせしないアイデアが、研修運転士の中で活発に飛び交っていました。


車のドアも開く、模擬装置

時には、あえて対応に困るような質問や行き先を告げ、そのたびに最適な対応を全員で考えるのだそう。

教室で学んだことを路上研修で実践します


教習車は車体上部の「阪急」の看板を外し「教習車」の札を掲げている

路上研修は、研修期間の中で最も時間を費やすもので、約2週間かけて繰り返し実施されます。

具体的にはどのように行われるのか聞いてみました。

まず、教習車に研修担当と複数の研修運転士が乗り、研修運転士が交代で運転士役としてハンドルを握ります。
そして、お客様を乗せた想定で目的地を目指しながら、研修担当から、走行するエリアの地理情報や交通事情を教わったり、運転技術や接遇のアドバイスを受けたり、緊張感がともなう中、安全最優先で経験を積んでいくのだそう。


教習車には安全のため、助手席の足元にもブレーキペダルが付いています

何人かの研修運転士の方に感想を聞いてみると
「すごく丁寧に教えてもらっているので、安心して勉強できている」と、みなさんがおっしゃいました。
年齢も性別も違う同期の仲間と打ち解け合い、共に切磋琢磨する姿がまぶしく映りました。

運転士として、経験を積んでいく

研修運転士は池田営業所での研修を終えると、さらに配属先の各営業所で先輩運転士に同乗してもらって指導を受け、晴れて運転士としてデビューします。

「教習所を巣立った運転士が、たまに池田営業所に顔を出してくれるんですよ。楽しく働いている姿を見られるのが、この仕事の喜びですね」

と、目を細める齋藤さん。

研修を終えて活躍している運転士は、どんな気持ちで仕事をされているのでしょうか?


営業所には、運転士が出退勤の報告や精算などの業務を行う部屋がある

「初めてお客様を乗せた日は、不安な気持ちでいっぱいでした」
と本音が漏れる、入社7カ月のSさん。

「研修で教えてもらったことが、日々の仕事に生きています。営業所では、先輩たちが気さくに声をかけてくださり、アドバイスもいただけます。おかげで毎日楽しく仕事ができています」

研修運転士時代に共に学んだ同期のメンバーには、年齢が倍ほどの年上の人もいるそうですが、今も連絡を取り合う心強い仲間だそう。


営業所の掲示板。道路の要注意箇所を運転士たちが共有できるようになっている

また、運転士歴1年3カ月のYさんは、研修運転士時代、坂道発進が苦手だったとか。

「配属先は坂道の多い宝塚営業所。教官にマンツーマンで坂道発進を特訓していただき、”絶対に後ろに下がらないコツ”を体に染み込ませました。今ではどんな坂も1ミリも後退せず発進できるようになり、お客様にもほめていただきました」


安心感があるとお客様からご好評いただく阪急タクシー

「日々お客様と接する中で、阪急タクシーへの期待値が特別に高いことを実感しています。”阪急タクシーの運転士”であることに誇りと自覚を持って、頑張っていきたいです」

お客様とのコミュニケーションを楽しみながら活躍する、笑顔のYさんの姿が目に浮かびました。

まとめ

今回は阪急タクシーに潜入し、運転士になるための研修を調べてきました。
タクシー運転士は、人の命を預かる仕事。熱心に教える齋藤さんと奥谷さんの姿から、その責任の重さが伝わってきました。
また、充実した研修は、研修運転士たちにとって会社への信頼や仕事のやりがいにも繋がっているように感じました。

この記事が公開される頃には、取材でお会いした研修運転士のみなさんは、運転士としてお客様を乗せていることでしょう。一緒に研修を受けた同期の仲間や先輩運転士たちと共に活躍されることを願っています!

阪急タクシー公式ホームページ
http://www.hankyu-taxi.co.jp/

最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。阪急沿線おしらべ係では、阪急電鉄だけでなく、阪急沿線アプリで連携しているグループ会社(能勢電鉄、阪急バス、阪急タクシー)に対する質問も受け付けています。

みなさんも気になるものや知りたいことが見つかった時は、ぜひ「阪急沿線おしらべ係」まで質問をお寄せください。

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