【阪急沿線おしらべ係 第22回】
万博で活躍!幻の臨時駅

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【2021年3月配信】

読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係のトッコが調査する「おしらべ係」。

突然ですが、この記事を公開した3月15日が、何の日であるかご存じでしょうか。

51年前の今日、日本万国博覧会が開幕しました。

「人類の進歩と調和」をテーマに世界から77カ国が参加、半年間におよぶ会期で6,400万人以上の方が訪れた、日本の歴史に残る一大イベントです。

そんな万博にまつわる、阪急電車に関する質問を読者の方からいただきました。

万博の時、阪急に臨時で設けられた駅はどうなったんですか?

そうなんです。

実は、万博開催に合わせ、臨時駅「万国博西口駅」が現在の千里線に設置されていたのです。

どんな駅だったのか? 
万博が終わった後、駅はどうなったのか?

今回は「万国博西口駅」について調べることにしましょう!

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臨時駅「万国博西口駅」とは??

万国博西口駅が完成したのは、大阪万博が開催される前年、昭和44(1969)年11月のこと。

当時の南千里駅と北千里駅の間(この時山田駅はまだ存在しない)に設置されました。

臨時駅ができたのは、博覧会の準備やパビリオンの従業員の足を確保することと、入場者をお運びするためです。

阪急線では万国博西口駅のほかに、会場までのバスの発着駅として、万博開催直前の3月8日、京都本線に「南茨木駅」が開業。2月には梅田駅や新大阪駅からの輸送のため、阪急(当時は京阪神急行電鉄)が中心となって設立された北大阪急行電鉄の江坂駅~万国博中央駅が開業しています。

万国博西口駅は、北大阪急行・万国博中央駅と合わせて万国博輸送のメイン駅として設置され、会場関係者の移動手段として、ひと足早く利用されていました。

興奮と熱気にあふれる臨時駅

万国博西口駅は、その名の通り万博会場の西口ゲートから最も近い場所にあり、駅から西口ゲートまでは通路橋で結ばれ、駅から流れるように会場へ到着できました。

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アジア初開催、日本全体が万博ムード一色だった当時、日本のみならず世界各地から訪れたお客様は、どんな気持ちで乗車されていたのでしょう。

「駅に降り立つとパビリオンが見えて、なんとも言えない高揚感がありました」

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と当時の興奮を思い出すのは、阪急電鉄運輸部の生き字引的存在、上田さん(おしらべ係、4度目のご登場)。当時はまだ高校生で、阪急電車を利用して8回も(!)会場に訪れたそうです。駅に降り立つと、皆、意気揚々としてゲートへ向かって歩いていたとか。

沿線の駅と「万国博西口駅」を結ぶ電車は、通常の定期列車のほかに臨時列車なども登場。

「万国博西口駅」と梅田駅、地下鉄堺筋線・動物園前駅をつなぐ「エキスポ準急」や、神戸線の高速神戸駅、宝塚線の宝塚駅からは「エキスポ直通」、団体専用列車なども運行されていました。

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ヘッドマークを掲げ、華々しい!

神戸線・宝塚線から千里線への直通、と言えば...
おしらべ係を毎号読んでいただいている方は、思い出すことがありませんか?

十三駅での電車の折り返しに、9号線がこの時すでに使われていたんですよ

と上田さん。(→詳しくはこちらの記事をチェック

ほかにも、記念チケットや往復乗車券が発売されたり、

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ヘッドマークを模したグッズも登場したり

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パンフレットなども発行され、万博を盛り上げていました。(↑すべて上田さんの私物です)

華やかな空気の裏で

と、お祭りムードが湧き上がっていましたが、電車の安全運行を支える裏側の人々の苦労は並大抵のものではありません。

会期中、5,000万人が来場すると予想された万博。
鉄道会社の最大の使命は「いかに安全に、会場までお客様をスムーズにお運びするか」です。

その課題をクリアするために、社内に「万博輸送課」を新設して体制を整備。万国博西口駅はもちろんのこと、北急線の万国博中央口駅、バス発着の起点・南茨木駅と茨木市駅、4つの駅を総合して、輸送力強化の対策が立てられました。

阪急線では「万国博輸送ダイヤ」を編成。

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上の写真は万国博西口駅から撮影した写真です。

が、よく見てください。

千里線を含め京都線を走る車両の先頭の車番は百の位が「300か400番台」と決まっていることは、過去のおしらべ係で紹介(→詳しくはこちらの記事をチェック)しましたが、これは違いますよね。この車両は元々宝塚線を走っていた車両です。

想定される入場者数の輸送には、京都線所属の車両だけでは足りず、神戸線や宝塚線の車両も借り出し、さらに前年に相互直通運転を開始していた、地下鉄堺筋線の車両も動員したのです。
「かつての名車、P-6車両も、ヘッドマークを掲げて活躍してましたよ」と、上田さんも思い出を話してくれました。

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車両確保と同時に、梅田駅の発着本数を増やすための京都線増設(梅田駅は駅の移設工事中で、宝塚線はすでに移転済のため線路が使えた)、臨時列車の運行、平日の淡路駅と日・祝日の茨木市駅で一部特急車両の臨時停車など、予想される最大の需要をまかなえるダイヤを設定しました。

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万国博西口駅では、平均ピーク日で約12万人の乗降客が予想され、休日には

梅田~北千里駅間 → 1時間に定期列車4本+エキスポ準急8本
動物園前~北千里駅間 → 1時間に定期列車4本+エキスポ準急4本

を運行していました。

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と、どんなに予想していても現実はそう思い通りにはいかないもの。他路線でのイベント開催に伴って車両の運用を変更したり、毎日の入場者と滞留者に合わせて臨時列車を運転したり、臨機応変な運用を行っていました。

中でも記録に残るのが、1日の万博入場者数が予想を超える83万5,000人と最大に達した9月5日。

いざ帰ろうと思っても、西口ゲートから万国博西口駅まで約200メートルの移動に2,3時間かかるほど混雑していたそう。最終列車を過ぎても会場にお客様が留まってしまうことが予想され、急遽深夜2時まで運転を延長現場スタッフの力を集結して対応に当たったのです。

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開催終了まで綿密な調整が必要だった万博輸送課をはじめ、世界中からやって来るお客様を出迎える現場のスタッフやアルバイト、バスやタクシーの運行を担うグループ会社など、総力をあげて取り組んだ「万国博輸送」。9月13日、ついに無事故で閉会の日を迎えることができました。この一連の取り組みは、阪急の歴史に誇るべき記録として刻まれています。

臨時駅、その後...

会期中、約920万人の利用があったという万国博西口駅。名残惜しくも、その翌日、昭和45(1970)年9月14日に「万国博西口駅」はその役目を終え、12月末を目指して駅と通路橋の撤去が始まりました。

さて、現在、駅があった場所はどうなっているのでしょうか。

地図で見るとこの場所です。

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(国土地理院の地図データを加工)

現場へ行ってみましょう。
阪急山田駅を降りて北へ7、8 分歩いて行ったところが旧万国博西口駅です。

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線路の東側にはマンションが建ち、小さい川も流れていますが、それ以外は草木が茂っているのみ。
道路からしか眺めることができませんが、周囲に何か痕跡らしきものは見当たりません。

上田さんにも尋ねてみましたが、元々、一時的に利用する目的で設置されていたことから、きれいさっぱり撤去され当時を物語るものはないそうです。

と、肩を落として山田駅へと歩き始め、電車の通過音が聴こえたので線路を見上げてみると、

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3300系の車両が走っているではありませんか!

3300系は昭和42(1967)年に登場した車両で、万博開催時にも走っていた車両です。50年以上経っても、まだ現役で千里線を走っているのです!

旧万国博西口駅の駅舎は跡形もありませんが、変わらず今日も、当時と同じ線路と車両で、お客様を運び続けています。

まとめ

万国博西口駅は、1年にも満たないごく短い期間しか存在しませんでしたが、大きな役割を果たしました。近くにお住まいの方でも、こうした臨時駅があったことを知らなかった方もいらっしゃるかもしれません。

新設される駅があれば廃止される駅もある。阪急沿線には、ほかにも廃止となった駅がいくつかあるのですが、それはまた別の機会に。

最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。阪急沿線おしらべ係では、阪急電鉄だけでなく、阪急沿線アプリで連携しているグループ会社(能勢電鉄、阪急バス、阪急タクシー)に対する質問も受け付けています。

みなさんも気になるものや知りたいことが見つかった時は、ぜひ「阪急沿線おしらべ係」まで質問をお寄せください。

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