【阪急沿線おしらべ係 第86回】
大型保線用機械ってなに?

【2026年7月配信】

このコーナーでは読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。
今回のお便りはこちら。

西宮車庫に月や星の描かれた車両が停まっているのを見かけました。どのような用途で使われる車両でしょうか。

おしらべ係が調査したところ、阪急電鉄の所有する月や星の描かれた車両は「大型保線用機械」(作業車)と呼ばれる特殊な車両とのこと。早速、それらを管理する部署へ取材に向かいました。

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そもそも「保線」ってなに?

今回取材にご協力くださったのは、阪急電鉄 技術部 軌道工事課 機械工事係に所属する中村一郎(なかむらいちろう)さんです。


中村さんは機械工事係22年目のベテランです。

毎日、重たい電車が何百回と行き交う線路は、実は日々少しずつゆがみが生じたり、レールの表面に小さな傷がついたりしています。

「保線」とは、そうした線路の状態を細かく検査し、修繕・交換することで、常に電車が安全に走行し、お客様が快適にご乗車いただける状態に保つ作業のことを言います。

「それらを放っておくと、電車の揺れが大きくなって乗り心地が悪くなるだけでなく、最悪の場合は重大な事故につながる恐れもあります。私たちは、毎日安心して電車に乗っていただけるよう、夜間に保線作業を続けているんです」と中村さん。
この保線作業のために導入されたのが、今回の主役である「大型保線用機械」です。阪急電鉄では現在、3台の大型保線用機械を所有しており、その全てを機械工事係が管理しています。

3台の大型保線用機械とは以下の車両です。

・軌道検測車:軌道のゆがみや状態をチェックする車両

・レール削正(さくせい)車

・マルチプルタイタンパー

このうち、「レール削正車」と「マルチプルタイタンパー」の2台に、月と星のマークが描かれていました。質問者さんが見かけられたのは、このどちらかの車両であったと思われます。

ここからはその2台について詳しく見ていきましょう。

レール寿命を延ばすレール削正車

レール削正車は、車両の下部にある砥石を使ってレールをキレイに削ります。
なぜ、わざわざレールを削る必要があるのでしょうか?

「レールは日々小さな傷がつくだけでなく、車両の重みで形が変わってしまいます。レール削正車で削ることで、元の正しい形に戻しているんです。もし削らなければ、傷や変形のせいで、電車の揺れや騒音が大きくなるだけでなく、最悪の場合は事故にもつながりかねません。レール削正車がなかったときは、問題解決のためにはレールを新品に交換する必要がありました。こまめにレールを削ることは、大切な資源であるレールを長く使ってコストを抑えるだけでなく、お客様に快適な乗り心地を提供し、何より重大な事故を未然に防いで安全な運行を守るという、重要な意義があるのです。阪急電鉄と線路がつながっている他社線にも、私たちのレール削正車が出向いて、レールを削るお手伝いをすることもあるんですよ」
なんと、活躍の場は阪急だけではないのですね。

実際に近くで見てみました!

ここからは、実際にレール削正車を見ながら解説していただきました。
ご協力いただいたのは、中村さんに加え、木村優(きむらゆう)さんと高田剛(たかたつよし)さんです。


(左から)中村さん、木村さん、高田さん

お二人が取材日の夜に行われる作業に備えて、入念な点検を行っている合間を縫って、お話を伺うことができました。


レール削正車は全長約30メートル。スイスのスペノ社製。こちらの面には星マークが見えますが、反対側には月のマークがあります。

このレール削正車は3両編成で、前から「A車」「C車」「B車」となっており、前後どちらにも進めるようにA車とB車には運転席があります。レールの削正はA車に搭載されたコンピューターの指示の下、B車とC車についている砥石で行います。


A車には、運転席のほかに、レールの状態を測定するセンサー、削正するためのデータを管理するコンピューター、車両を動かすためのモーターが載っています。


真ん中はB車…と思いきやC車。中央下部の茶色い箱の下についている砥石でレールを削正します。また、上部の車体には削ったレールの粉塵を集めるフィルターと貯水タンクがあります。


B車はC車と近い装置の構成ですが、運転席があります。

こちらが車両の下についている砥石部分、なのですが黒い幕のようなものがついていて肝心の砥石が見えません。これはレールを削る際に激しく飛び散る火花や鉄粉が、外に漏れないようにするための頑丈なガードなのだそう。


取り外した幕。金属製で重厚感があります。

この幕を取り外してもらい、改めて車両の下をのぞき込むと円形のものが現れました。

これがレールを削る砥石で、B車とC車で合計16個あります。
あらかじめ計測されたレールの傷み具合に合わせて、それぞれの砥石の当て方をコンピューターでプログラミングし、少しずつ削っていきます。一晩に同じ場所を15回ほど行ったり来たりして、削正できるのは約450メートル。一駅間にも満たないわずかな範囲ですが、これを毎晩のように続けているそうです。

「騒音の問題などもあるので、一晩ごとに異なる区間を削ります。電車の重さや運行本数などを計算し、どの区間をいつ削るか年単位で綿密に計画を立てているんですよ」


レールの頭頂部(てっぺん)を削る際は砥石をレールに対してまっすぐ当てます。


レールの内側を削る際は砥石をレールに対して傾かせて当てます。


右の砥石は新しいもので、左の砥石は数日間使用したもの。

レール削正車による作業の様子

レール削正車による作業風景です。2021年に撮影した際の保線用機器によるものですが、現在も作業内容は変わっておりません。

夜間作業で実際にレール削正を行っている様子です。レールを削正する際には砥石部分から大きな火花が出ていることがよくわかります。

いざ運転席の中に潜入!

今回は特別に、運転席の中にも入らせていただきました!
通常の車両の運転席と大きく違うのは、並んでいるパネルやボタンの多さです。

中央に並んだパネルはタッチパネル。複雑な機能を持つレール削正車を、直感的にミスなく操作できるよう、最先端のシステムが導入されているそうです。

ほぼ同じシステムが反対側のB車にも搭載されていて、レール削正の際に往復するのに合わせて、操縦も交代するようになっています。

レールをミリ単位で動かす「マルチプルタイタンパー」

続いて、もう1台の主役、マルチプルタイタンパーについて、再度中村さんにお聞きしました。
バラストと呼ばれる砂利の上に敷かれたレールは、電車が通過することで徐々に沈んでいってしまうそうで、マルチプルタイタンパーは、そのゆがみを修正する車両になります。
仕組みとしては、まずレールを持ち上げ、その間に頑丈な鉄の爪をバラストに突き挿し、高速で振動させてバラストを突き固めることで、レールの高さを微調整するのだそうです。このとき、高さだけでなく、左右の位置も同時にミリ単位で修正していきます。

実物を見せてもらいました!

マルチプルタイタンパーも、夜間作業を控えた点検中にお邪魔して、実物を見せていただきました。ご協力いただいたのは、江﨑健太(えざきけんた)さんと向井広大(むかいこうだい)さんです。


(左から)江﨑さん、向井さん


車両左側には、星マークがペイントされていますね。


右側には、月マークが。


オーストリアのプラッサー&トイラー社製。2024年に導入され、阪急のマルチプルタイタンパーとしては8代目の機種だそう。全長はレール削正車とほぼ同じ約30メートルです。

車両の中央部にあるのが、マルチプルタイタンパーの主要な設備です。

左に見えるパーツでレールをひっかけて持ち上げ、その間に右側にある頑丈な鉄の爪でバラストを突き固めていきます。


この円形の部分でレールをひっかけて持ち上げます。


バラストに突き挿す爪。近くで見ると迫力があります。

レールの高さだけでなく左右の位置まで同時にミリ単位で修正していく作業は、人力作業では大変な労力を必要としていたとのこと。
「マルチプルタイタンパーの導入によって、線路修繕の精度とスピードは飛躍的に向上したんですよ」と、中村さんはその意義を語ります。

マルチプルタイタンパーによる作業の様子

マルチプルタイタンパーによる夜間のバラスト突き固め作業の様子です。こちらも2021年に撮影した作業風景ですが、現在も作業内容は大きく変わっておりません。

マルチプルタイタンパーの操縦席

マルチプルタイタンパーの操縦席も特別に見せていただきました。

こちらもレール削正車と同じくたくさんのボタンやモニターが備え付けてありますね。操縦席から、全ての操作を行えるようになっているそうです。

前方の窓からは下が見えるようになっていて、爪などが実際に動く様子を見ながら作業を行うそうです。操縦席から見えない部分についても常にモニターで見ることができます。

まとめ

取材中、大型保線用機械を操縦・管理することについて、みなさん口をそろえておっしゃっていたのは、巨大で複雑な機械の操作技術を身につけることは大変だけれども、自分たちの仕事が阪急電車をご利用いただくお客様の「安心・快適」につながっていることがやりがいだということでした。

これから阪急沿線でこの月と星の車両を見かけたときは、毎夜ひっそりと行われているであろう保線作業のことを、ぜひ思い出してみてください。

最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。

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