【阪急沿線おしらべ係 第83回】
豊中に巨大ワニがいた!?
42万年前の大阪に生息した「マチカネワニ」の謎を追え!

【2026年4月配信】

このコーナーでは読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。
今回のお便りはこちら。

阪急沿線で発掘された巨大ワニの化石があると聞きました。詳しく教えてください。

阪急沿線でワニといえば、豊中市で1964年に発掘されたマチカネワニのことでしょうか。2025年には天然記念物に指定されたことでも話題になりました。
同年に大阪大学の坂口志文特別栄誉教授(受賞時は特任教授)がノーベル生理学・医学賞に選ばれた際の記者会見で、かわいらしいワニのぬいぐるみを目にした方も多いのではないでしょうか。あのワニは「ワニ博士」という名の大阪大学公式マスコットキャラクター。実はこのワニ博士のモデルとなったのもマチカネワニです。


大阪大学「ワニ博士」

このマチカネワニの化石は、博物館で展示されているそう。おしらべ係が早速向かいました。

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上田さんの後ろにかけられたイラストにもワニが描いてあります。

今回お話を伺ったのは、大阪大学豊中キャンパス内にある大阪大学総合学術博物館の上田裕尋(うえだ ひろちか)さんです。上田さんは、脊椎動物の化石を研究する古生物学者で、恐竜を含む絶滅した爬虫類がご専門だそう。
「現在生きている鳥たちは、恐竜の一部が進化した動物です。そして、その鳥や恐竜に最も近い、今も生きている動物が『ワニ』なんです。ワニは、鳥や恐竜の理解につながる重要な研究テーマなんですよ」。


爬虫類の系統樹
図版作成・提供/上田裕尋

42万年前の大阪は、多様な生物が生息する湿地帯だった

上田さんに案内されて博物館に入ると、まず目に入るのはワニの骨格です。2階まで吹き抜けになったロビーの壁面に張り付けられた巨大な化石に驚いていると、


しっぽをカーブさせることで何とか壁面に収まるほどの巨大さ

「圧倒されるでしょう? これは実物大のレプリカなんですが、全長は約7メートル、体重は約1.5トンと推定されています。現在世界最大とされるイリエワニでも、6メートルを超える個体はまれですから、マチカネワニがいかに巨大だったかが分かります」と上田さん。

その大きさに圧倒された後、本物の化石が展示されている3階の展示室へと移動。実物の化石を前に、上田さんに解説していただきます。


本物のマチカネワニの化石と、その前で解説してくださる上田さん

青年による世紀の大発見

この巨大な化石はどのように見つかったのでしょうか。
「1964年、大阪大学豊中キャンパス内の工事現場で発見されました。その大学がある山が待兼山(まちかねやま)です。そこから名付けてマチカネワニです。化石採集に来ていた青年が骨を見つけたんです。最初は哺乳類の骨ではないかと思われたそうですが、その後、誰が見てもワニにしか見えない頭骨が出てきました。当時、古代の日本にワニはいなかったと考えられていたため、研究者たちの間ではかなりのインパクトがありました。しかも、小さかったり、他の骨とつながっていなかったりで、普通なら流されて見つからない骨まで含め全身が残っているんです。もう少し発見が遅れていたら工事の重機で粉々にされたかもしれなかったと思うと、まさに間一髪、奇跡的なタイミングでした」。

出るはずがないと思われていたワニの化石が、しかも全身出てきたとなると、とてもセンセーショナルなニュースだったに違いありません。


マチカネワニ発掘当時の大阪大学工事現場(撮影者不明)

42万年前のいきものたち

待兼山から見つかったマチカネワニですが、ワニが山に生息していたのでしょうか。
「待兼山は新古今和歌集にも詠まれている土地で、古くから人々に親しまれてきた山ですが、マチカネワニが生きていたと思われる約42万年前は、現在のような山ではなく、平野でした。マチカネワニと一緒に水草や木などの化石も見つかっているので、広大な湿地帯だったと考えられています。当時、この大阪には、ゾウやシカ、サイの仲間といった大型哺乳類も生息していました。マチカネワニは、魚や水辺にやってきたさまざまな動物たちを襲って食べていたと考えられます」。
7メートルのワニが大きな動物たちを襲っていたとは、今の雰囲気からは想像できません。


化石と同じ展示室にある約42万年前の待兼山の様子のイラスト。
左の下顎が少し短い個体が化石で発掘されたマチカネワニだそう。

化石が物語る過酷な生存環境

生態系の頂点に君臨していたマチカネワニですが、化石を調べると意外な事実が。
「実はマチカネワニは、全身がケガだらけだったようです。特徴的なのは下顎(したあご)で、先端がありません。触ってみると断面の骨が滑らかになっているのが分かるのですが、これは治った跡ということです」。


マチカネワニの頭骨。
中央の上顎に比べて、右側に置かれた下顎の骨が短いことは明らか。

顎の先がなくなるような大けがをしても生きていた生命力には驚きですね!
「それだけではありません。後ろ足には完全に折れた後、ずれてくっついて治った跡があります。更に背中の骨には、ほかのワニにかまれたと思われるサイズの穴が開いているんですよ!こうした過酷な一生が見えるのも、保存状態が抜群に良いマチカネワニならではの学術的価値なんです」

学術的にはほかにも重要なことがあるそうです。
「現在のワニは大きくいくつかのグループに分けられますが、マチカネワニの特徴は、それら複数のグループの特徴を併せ持っているところにあります。実は近年、ワニの進化の系統樹(道筋)が大きく書き換わりつつあり、次々と新しい事実が判明してきています。そうした中で、さまざまな特徴が混ぜこぜになったマチカネワニを研究することが、ワニ全体の進化の歴史を解き明かすための鍵になるのではと期待しています」。


ワニの系統樹。右が従来の形態データによるもので、左が最新の遺伝子データによるもの。
図版作成・提供/上田裕尋

未来へとつなぐ、博物館の使命

その後、マチカネワニの化石は2014年に国の登録記念物に選ばれ、2025年9月には国の「天然記念物」にも指定されました。


レプリカの飾られている博物館のロビーには、天然記念物指定を祝うパネルも。

「化石標本が天然記念物に指定されるのは全国的にも非常に珍しいことです。進化を解明するうえで不可欠な標本であるという学術的価値に加え、大阪大学の『ワニ博士』や豊中市の『マチカネくん』のようにキャラクターにもなり、地域の文化に深く根ざして愛されている点が高く評価された結果です」


豊中市の公式キャラクター マチカネくん。
ワニ博士と同じくマチカネワニがモデルで、マンホールにもなっています。

今後、マチカネワニ研究はどう進んでいくのでしょう。
「最新のデジタル技術を活用して、これまで調査できていなかったことを調べたいですね。CTスキャンで骨の内部を解析したり、コンピューターシミュレーションで顎の筋肉や喉の動き、噛む力を再現したり。スキャンデータが取れれば3Dプリントで縮小レプリカを作ることができますから、子どもたちが実際に触って学べるワークショップなどが開催できるようになるかもしれません」。
研究が進むことで子どもたちが学べる機会も増えるなんて素晴らしいですね。
「博物館は、マチカネワニのような貴重な資料を50年後、100年後の未来へ確実に引き継ぐこと、そして、多くの人に自然の不思議さや科学の面白さを伝えるきっかけを作ることが使命だと考えています。マチカネワニを通じて、みなさんの世界への『解像度』が高まり、ワクワクしてもらえたらうれしいです」と、上田さんは力強く語ってくれました。

マチカネワニに会いに行こう!

今回、調査したとおり、マチカネワニの化石の実物は大阪大学総合学術博物館に保管・展示されていますが、レプリカは全国にいくつか存在しているそう。
阪急沿線なら、阪急宝塚線曽根駅近くの豊中市立文化芸術センターでも見ることができますので、ぜひマチカネワニに会いに出掛けてみてください。

■ 大阪大学総合学術博物館(待兼山修学館)

石橋阪大前駅から徒歩約10分。記事でも紹介したように1階ロビーにはレプリカが、3階の展示室には本物の化石が展示されているほか、科学技術の歴史に関する資料なども常設されています。
https://www.museum.osaka-u.ac.jp/

■ 豊中市立文化芸術センター


提供:豊中市立文化芸術センター

曽根駅から徒歩約5分。1階から地下へ続く吹き抜けの階段横の壁面に、レプリカが設置されています。離れた場所からでも、その巨大さが一目で分かります。
https://www.toyonaka-hall.jp/

取材の最後に上田さんからちょっと面白い話を伺いました。
「発掘されたマチカネワニの化石は全身骨格とは言うものの、しっぽの骨は途中までしか見つかっていません。レプリカ制作の際は、科学的に想定される形で復元したそうなんですが、実は今から考えると少し長いんです。そのため、展示している施設によっては、より正しい形に短くしているところもあるらしくて、今後は、その辺りの調査も進めていきたいですね」
まさか、レプリカのしっぽの長さが間違っていたとは! マチカネワニのレプリカを展示してある施設で学芸員の方と話す機会があれば、ぜひ詳しく話を聞いてみたいですね。

最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。

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