【阪急沿線おしらべ係 第81回】
謎のレンガ建築 六甲変電所で電車が走る裏側を調査!

【2026年2月配信】

このコーナーでは読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。
今回のお便りはこちら。

阪急六甲駅の近くにあるレトロな建物が気になります。中はどうなっているのでしょうか?また、何をしているところなのでしょうか?

電車内から見るレンガ造りの建物、六甲変電所。確かに気になりますね。現在も使用されているのか?そもそも変電所とは?そんな疑問を解消するべく、六甲変電所でお話を伺いました。

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六甲変電所の歴史

まずは六甲変電所の歴史を簡単にご紹介します。
六甲変電所が建てられたのは大正9年。残念ながら当時の写真は残っていませんが、昭和57年の写真では、現在よりもレンガ造りの部分が多く残っています。


昭和57年の六甲変電所


現在の六甲変電所

平成7年1月17日には阪神・淡路大震災に見舞われましたが、幸い機器や建物の損傷は少なく、同年3月12日に神戸線御影~三宮(現在の神戸三宮)間が復旧し、折り返し運転が再開された際には、技術部電気部門の仮詰所として活躍しました。

とはいえ、建物の経年劣化は避けられません。阪神・淡路大震災でも損傷は少なかったとはいえ、ひび割れが発生したといいます。耐震診断を実施し、必要な補強を行った結果、レンガとコンクリートが共存する現在の姿になりました。

早速六甲変電所へ!

※変電所は高圧電気を扱うため非常に危険です。今回は特別な許可を得て取材をしています。

歴史を確認したところで、早速六甲変電所に向かいます。今回取材にご協力いただいたのは、阪急電鉄技術部 電力課 神戸線係に所属する山口裕史(やまぐちゆうじ)さんと増田良太(ますだりょうた)さんです。


左が増田さん、右が山口さん

山口さんは1999年に入社。変電設備の保守の他、駅などの照明設備の設計・施工監理にも従事されていたのだとか。増田さんは2007年に入社以来、変電設備の保守と工事を経験され、現在も電力課に。
お二人は阪急西宮北口駅近くにある詰所に勤務し、変電所の機器を正常な状態に保つための保守点検業務などで定期的に六甲変電所に入所しておられます。

現在の六甲変電所の外観・内観をチェック!

阪急六甲駅の北出口の目の前に見える建物が今回の目的地・六甲変電所です。


出口からすぐに見えるあの建物


アーチ窓などが部分的にコンクリートで埋められています

遠くから見ると全てがレンガ造りのようにも思えますが、近づいてみるとレンガ色に塗られた耐震補強のコンクリートが確認できます。


六甲変電所の天井(木造)

建物の中に入ってみると、外からは分かりませんでしたが、屋根の内側は木造になっていたのですね。ここだけ見ると、まるで大きな古民家のようです。

建物内にもレンガとコンクリートの境目が。変電機器のすぐ横の壁をよく見ると、アーチ窓を埋めたと思われる痕跡が見えます。

レンガとコンクリートの境目

歴史を感じる細い扉

不思議な扉を発見しました。現在は施錠されていますが、この奥には六甲変電所が有人だった頃、夜勤者が利用していたシャワー室があったそうです。
力強い「整頓」の文字からは、高圧な電気を扱う場所だからこその“安全第一”という現場の精神が伝わってきます。


常に整理整頓されている現場の点検用の工具

変電所って何をするところ?

さて、外観と内観をチェックしたところで、いよいよ本題の「変電所とは?」という疑問に迫ります。

変電所には大きく分けると二つの役割があります。
●電力会社から受電した交流22,000ボルト(以下Vと表記)を、鉄道設備で使える電気(直流1,500Vや交流3,300V)に変換すること
●障害発生時、故障が発生した電気回路やケーブルを早急に切り離し、被害の拡大を防ぐこと
※77,000V、33,000Vを受電する変電所も存在

ここで、電気の流れを追ってみましょう。


電力会社から購入した電気が鉄道設備に届くまでの電気の流れ

電力会社から届く電圧は数万Vと非常に高い電圧(特別高圧)です。これを電車や駅で使用できる電圧に変換する必要があり、(1)直流1,500V(2)交流3,300V に変換します。
※交流6,600Vに変換する変電所も存在


電力会社から特別高圧の電気を受電する特高開閉塔機器

(1)直流1,500Vについて(電車の走行用)
阪急電車は、直流1,500Vの電気で走行しています。


電車の走行に利用される直流1,500V変換の流れ

電力会社から受電した交流22,000Vは、「変圧器」という交流電圧の高さを変換する装置を使って交流1,200Vに変換されます。


変圧器

さらに、電車を動かす電気は交流ではなく直流なため、今度は「整流器」を使って交流1,200Vを直流1,500Vに変換します。


整流器

直流1,500Vに変換した電気は「き電設備」を介して変電所外へ送電され、トロリー線(電車に電力を供給する電線)を通り、さらに電車の屋根上に設置されたパンタグラフを通って車両のモーターに電気が供給される…という流れです。


き電設備

(2)交流3,300V(駅・信号・踏切などの設備用)
駅や信号などで使用される電気の種類は交流です。


駅や信号などの鉄道設備用 交流3,300V変換の流れ

先ほど同様、「変圧器」により交流22,000Vを交流3,300Vに変換します。
駅などで使う電気は、受電した電気の種類と同じく「交流」なので整流器は使用しません。ただ、駅などで使用するにはまだまだ高電圧なので、さらに各駅などにある電気設備で低い電圧に変換しています。


六甲駅の出口付近にある高圧受電設備

各駅に設置している「高圧受電設備」で、交流3,300Vの高電圧はさらに210V・105Vなどの低い電圧に変換され、駅の照明や改札、踏切で使用します。


六甲駅の改札

以上のことから、変電所には電力会社などから受電した電気を、各駅や電車などで使用できる電気に変換する役割があることがわかっていただけたかと思いますが、もう一つの役割である「障害が発生した電気回路やケーブルを早急に切り離し、被害の拡大を防ぐ」とはどういうことなのでしょうか。山口さんが、例え話を用いて分かりやすく説明してくれました。

「走行中の電車のモーターに不具合が生じると、瞬間的に大きな電流が流れることがあります。ご家庭でタコ足配線によって大きな電流が流れることをイメージしてください。もし1つのコンセントにたくさんの電気製品をつないで同時に使用すると、たくさんの電流が流れ、分電盤のブレーカーが落ちて電気の供給が停止されますよね。それと同じ役割を果たす『遮断器(しゃだんき)』という機器が変電所には備わっています。家庭用ブレーカーよりはるかに大きいものが変電所に設置されていると思っていただければと思います」


遮断器。異常を検知した場合に、自動で電気の供給を停止します

おや?「断路器(だんろき)」という機器もありますね。遮断器とは何が違うのでしょうか。
「遮断器は電気が通電中に異常を検知すると、流れている電流を強制的に遮断するものです。一方、断路器は点検作業時に活用するもので、物理的に回路を切り離し、安全に点検を行うための機器です。」


断路器

ちなみに、各機器には赤いランプと緑のランプがついていますが、緑のランプが送電中で、赤のランプが切り離し中ということでしょうか?
「実は反対で、赤いランプが送電中、緑のランプが停止・または切り離し中なんですよ」と増田さん。
なるほど…赤は「送電中につき危険!」と注意を促していると思えば覚えやすいですね。

最後に、これらの各機器の状態を監視・制御するための「配電盤(はいでんばん)」を見せていただきました。


配電盤

これまで見てきた各機器が現在どのような状態なのかがまとめて把握できるようになっています。


通常は電気指令所から遠隔で各機器を操作しますが、設備を点検する際には六甲変電所でも操作できるようになっています

こちらの、数字やアルファベットが並ぶ表示窓は何でしょうか。

「これは機器にエラーが起こった際、どのようなエラーなのかを知らせてくれる「故障表示灯」というものです。例えば『50G』の窓が赤く光れば過電流、『32』なら電気の逆流が起こっているというサインです」
身近な例でたとえると、パソコンを使っているときにたまに出てくるシステムエラーコードみたいなものですね。担当者はこの数字やアルファベットの意味を把握し、原因を素早く特定する手掛かりにしています。

変電所でのお仕事について

改めて、山口さんと増田さんに変電所でのお仕事について伺いました。
お二人は普段、西宮詰所にいらっしゃるとのことですが、六甲変電所に常駐されているわけではないんですね。
「六甲変電所に限らず、阪急電鉄の変電所など(全23カ所)は高度に自動化されているため常時無人となっています。ただ、定期的に点検が必要なため、六甲変電所へはだいたい月に2~5回ほど入所しています」と増田さん。


先輩・後輩でもあるお二人

電気を扱う現場は危険と隣り合わせであり、常に緊張感を伴います。
山口さんは「何より仲間と自分の安全が第一です。小さな気の緩みが重大な事故につながりかねません。お互いに声掛けなどもしつつ、慎重に進めています」と話してくれました。


増田さんが手にしているのはSN式アースフックという、各機器の点検・修理作業をする際に使用する安全用具です。誤送電から身を守る他、機器に残留した電気を安全に放電させる際にも使用します

ちなみに阪急電鉄の電気部門に初めて配属されると、全員「電気取扱者特別教育」を受講します。その後、現場で先輩から実務を学び、1年ほどかけてようやく一人前になるそうです。

「とはいえ、私もまだまだ勉強が必要です。入社して30年近くたち、後輩に指導する場面も増えましたが、人に教えるためには自分が鉄道設備の仕組みを根本から理解している必要があります。図面とにらめっこしながら問題をひもといていくたびに、諸先輩方はすごいなぁとしみじみ思います」と山口さん。

増田さんは、仕事中に心掛けていることについて「変電所の保守点検は、電車が運行している時間帯にはできない作業も多く、停電ができる夜間作業で点検することもしばしば。終電から始発までの限られた時間の中で、仲間や自分の安全にも配慮しつつ、一つずつ“確実に”検査を行うことを大切にしています」と語ってくれました。

点検する機器の向こう側にお客様の笑顔がある

取材中は始終朗らかに対応いただきましたが、お二人とも強い責任感と緊張感をもってお仕事をされていることが伝わってきました。仕事をする上でのやりがいをお伺いすると、お二人とも迷いなく「何事もなく電車が動いてくれているのが一番ですね!」と言い切ります。

お客様に「安心」と「快適」をお届けするためには、日々の安全輸送が不可欠。お二人はいわば「縁の下の力持ち」として、多くの人々の日常を支えているのですね。
「お客様から直接見える仕事ではありませんが、阪急電鉄の一員として『お客様に安心・安全、そして快適なサービスを提供する』という意識は皆で共有していると思っています」

「点検する機器の向こう側にお客様の笑顔がある」という山口さんの言葉が印象的でした。

まとめ

レトロな外観からは想像できないほど、高度に自動化された電気設備がそろった六甲変電所。そして、「便利」であり「危険」でもある電気を取り扱う現場には、日々責任と緊張感をもって働く人たちがいます。
変電所を見かけたときには、毎日変わらず走り続ける阪急電車を支えている人たちがいることにも、少しだけ思いをはせていただけるとうれしいです。

技術部電気部門のご紹介はこちら
https://www.hankyu.co.jp/story/anzen/index.html#section-03

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