【阪急沿線おしらべ係 第72回】
阪急うめだ本店の制服にまつわるストーリーをたどって
【2025年5月配信】
このコーナーでは読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。
今回は読者の方よりこんな質問が寄せられました。
「阪急百貨店の店員さんの制服の変遷を調べていただけないでしょうか?自分でも調べてみようと池田文庫に照会したものの、阪急百貨店の制服に関して歴史的な変遷をまとめた書籍などは存在しないと伺いました」
とのことです。
おしらべ係ではさっそく調査へ行ってきました!
阪急百貨店社員が着用する制服や、百貨店の顔でもあるインフォメーションスタッフの方が着用している制服などについてうかがいました
今回お話をうかがったのは阪急うめだ本店 案内サービスの責任者の井口知行(いぐち・ともゆき)さんです。井口さんは1990年に阪急百貨店(当時)に入社し、阪急うめだ本店、神戸阪急(当時は神戸ハーバーランド)の食品売り場を担当し、阪急キッチンエール関西の立ち上げなどに携わられた後、2007年の阪急百貨店、阪神百貨店経営統合から総務、顧客サービスなど店舗のサポート業務に携わっておられます。
井口さん(写真左)と、現在のインフォメーションスタッフ用の制服を着用した㈱阪急ジョブ・エールの王さん(写真右)。
1929年に開業した「阪急百貨店」。創業以来、非日常な空間が人々を魅了
2012年の建て替えリニューアルオープンで生まれ変わった店舗外観
最初に今回ご協力いただいた阪急うめだ本店の歴史について簡単にご紹介します。
阪急百貨店売場(1932年頃)(写真提供:阪急電鉄)
日本で初めて駅直結で造られたターミナルデパートが現在の阪急うめだ本店です。
1920年梅田駅構内に5階建ての「阪急ビル」が完成、その後も順調に売り上げを伸ばして、1929年4月15日、地下1階が魚菜マーケット、1階が梅田駅のコンコース、2~6階が直営百貨店、7・8階が食堂というフロア構成で「阪急百貨店」が誕生しました。
阪急百貨店8階洋食堂(1935年頃)(写真提供:阪急電鉄)
以降、阪急百貨店は梅田を基点として千里、川西、宝塚、西宮にも出店、現在は関西地区で8店舗、関東地区で3店舗、九州地区で1店舗を展開しています。
年間約4,200万人(2023年度阪急メンズ大阪含む)のお客様を迎える阪急うめだ本店
阪急うめだ本店と聞くとコンコースウィンドーを思い浮かべられる方も多いのではないでしょうか?季節やイベント・キャンペーン合わせて変化し、見ているだけで心が躍るウィンドーは百貨店を体現する場所とも言えますね。
阪急うめだ本店の顔ともいえるコンコースウィンドー
阪急うめだ本店のもう一つの顔、エントランス中央のインフォメーション
阪急うめだ本店の1階インフォメーションセンター
2012年には「わくわくする、行きたくなる劇場型百貨店」のコンセプトのもと阪急うめだ本店の建て替えが完了し、リニューアルオープン。9階の祝祭広場をはじめ、いつもそこで何かが待っている楽しさを、お客様にわくわく感を提供しています。
そして百貨店の入り口にどっしりとした円形のカウンターを構えるのがインフォメーションセンターです。1階正面玄関を入ってすぐのところにあり、こちらももう一つの百貨店の顔といえる場所です。
皆さんが「百貨店の制服」と聞いて、まず思い浮かべられるのは、インフォメーションセンターのスタッフが身に着ける制服ではないでしょうか。以前は阪急百貨店の社員が着用する制服と、インフォメーションスタッフが着用する制服の2種があったそうですが、現在、社員の方の制服はないとのことでした。
ここからは阪急うめだ本店内に残された貴重な資料とともに、お話をうかがっていきます。
阪急うめだ本店で制服着用が始まったのは1964年
今はなくなってしまったという百貨店の社員用制服ですが、資料として残る中で、一番古い制服は1964年に初めて採用された「一般女子制服」、夏のオーバーブラウスでした。
軽やかで動きやすそうな印象の制服(※1)
1967年に撮影された写真は、他の写真とは違いインフォメーションの方、食堂の方など複数名が一緒に写っています。
後列左:インフォメーションの制服、後列右:不明、前列:食堂外の制服、中列真ん中1名:食品売場の制服、中列両端2名:一般女子制服(※1)
そして1970年の制服はなんとミニスカート。1960年代から大流行していたミニスカートが採用されています。流行の先端をいく百貨店ですから当然といえば当然ですね。
シャツの大きな襟や写っている女性の髪形などからも当時の流行を感じられます(※1)
1990年代になると、制服はシンプルかつ、落ち着いた雰囲気を併せ持つデザインになってきています。
この頃の制服の方が馴染み深いという方も多いかもしれません。(※1)
※1 阪急百貨店グループ労働組合発行『わたしと阪急。』
最後にご紹介するのは、エスコートスタッフの制服です。
2009年に阪急うめだ本店の建て替え工事が行われた際に、売場移設が多く発生したため、お客様のご案内役として新たに店舗案内スタッフを新設、それがエスコートスタッフでした。
約3年前からエスコートスタッフは委託会社が担当するようになりましたが、こちらの制服は現在もエスカレーター、エレベーターの案内スタッフが着用、阪急うめだ本店でみることができます。
そして社員用の制服はこのエスコートスタッフのものを最後に無くなったとのことです。
中央:男性のエスコートスタッフが着用した制服
井口さんによれば「資料では、1968年から新入社員の女性のスカートについて会社が全額負担するようになったとあり、同年には、男性にもスボンの貸与が始まったということが書かれてあります。1970年には大阪万博を機に制服の改定が行われたといったことも書かれており、細かなエピソードから時代性やその時の出来事まで読み取れるのが興味深いですね」とのこと。
クラシックなデザイン画もすてき。インフォメーションの制服
ここからは店内案内などを行うインフォメーションスタッフが着用した制服をご紹介します。
井口さんに手渡された分厚いファイルを開いてみると、絵の具などで手書きされたデザイン画の数々がでてきました。クラシックなスタイルの制服を描いたすてきな絵にとても興味をひかれ、見入ってしまいました。
残されたデザイン画の中で一番古いものは1975年のデザイン画。左:冬マント、右:冬制服(資料提供:阪急百貨店)
左:1976年合服、右:夏服。(資料提供:阪急百貨店)
1980年の冬制服はベレー帽など小物もおしゃれ。左:冬コート、右:冬服。(資料提供:阪急百貨店)
1988年の冬服、コートと合制服のデザイン。(資料提供:阪急百貨店)
デザイン画だけでなく、バッジやコサージュのつけ方、帽子のかぶり方などについても細かな指定がされている(資料提供:阪急百貨店)
実際に着用した写真も残っています(資料提供:阪急百貨店)
デザイン重視から機能性重視へ変化する制服
ここまでは主にデザインについて振り返ってきましたが、制服の役割などについてもお話をうかがいました。「制服の変更は、以前だと2~3年周期でしたが、最近では5年くらいのスパンになっています。制服自体も、華やかなデザイン性が優先された時期が長かったのですが、最近ではより機能性が重視されるようになり、時代のニーズの変化を感じますね。また、インフォメーションセンターでは館内のほか、梅田界隈の案内などの問い合わせがありますが、ここ数年はインバウンドのお客様が多いことから、外国語対応ができるスタッフの採用が多くなっているのも大きな変化といえます」とのこと。
2012年のリニューアルオープンの際に提案された制服のデザイン画(一部抜粋)(資料提供:阪急百貨店)
時代が変わっても変わらないのは「阪急らしさ」
また、井口さんは「百貨店という空間に合う上質さ、非日常感、落ち着いた雰囲気などは時代が変わっても守り続けているものですし、制服のデザインなどでも「阪急らしさ」は重視する点です。着用するからには、きちんとした身なりでお客様をお出迎え、お見送りし、親切丁寧な応対は百貨店の印象ともなる存在であると、責任感を持ってお客様と接するよう指導しています」と言います。
井口さんの制服にまつわる思い出をお聞きしました
最後に、井口さんの制服に関する思い出についてお話をうかがいました。「建て替え前の旧館の時は各フロアの中央にインフォメーションが設けられており、その中に制服に身を包んだ方が立っておられました。小さな頃に両親と百貨店を訪れた時に、その様子を見ては華やかな世界に憧れを感じていました。
おそらく私が10歳くらいの頃と記憶しているのですが、インフォメーションの方が真っ赤なジャケットの制服を着用し、素敵な笑顔で応対してくれたことが今も鮮烈に目に焼き付いています。今、店舗サポート部門の責任者という立場で、インフォメーション業務に関わっていることも何かの縁と、嬉しく思っています」。
阪急百貨店 阪急うめだ本店 公式サイトはこちらから
https://www.hankyu-dept.co.jp
取材を終えて
スッと背筋を伸ばした立ち姿で洗練された印象のインフォメーションスタッフ、売場などで困った時には頼りになる百貨店の社員の方、その制服に着目した今回の取材。制服からはその時代の空気感などを感じるとともに、さらには「阪急らしさ」という世界観を形作る大切な要素の1つとして、制服の存在があることを深く感じる取材となりました。
最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。阪急沿線おしらべ係では、阪急電鉄だけでなく、グループ会社(能勢電鉄、阪急バス、阪急タクシー)など阪急沿線に関する質問も受け付けています。
みなさんも気になるものや知りたいことが見つかった時は、ぜひ「阪急沿線おしらべ係」まで質問をお寄せください。
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