【阪急沿線おしらべ係 第70回】
これが映画館!?塚口駅前に全国から人が集まる「マサラ上映」とは!
画像提供/関西キネマ倶楽部
【2025年3月配信】
このコーナーでは読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。
今回は、
阪急塚口駅前にある映画館「塚口サンサン劇場」で盛り上がっている「マサラ上映」は、どんなことをしているの?
という疑問に応えるべく、阪急塚口駅に行ってきました。
みなさんは「マサラ上映」をご存知でしょうか?
今にもつぶれそうだった塚口の小さな映画館が「マサラ上映」をきっかけに、全国各地から人が訪れる場所になっているというのです。
そもそも「マサラ上映」って何なのか?
なぜそんなに盛り上がっているのか?
遠方からわざわざ新幹線や飛行機に乗ってまでこの劇場に人が集まってくるとは、いったい、どんな魅力があるのでしょうか?
おしらべ係が、「マサラ上映」を体感してその魅力を探ってきました!
70年以上、街の文化を守ってきた塚口サンサン劇場
塚口サンサン劇場は、阪急塚口駅南出口を出て東へすぐ、商業施設「塚口さんさんタウン」内にあります。
レトロな雰囲気が漂う外観
今回お話を伺ったのは、塚口サンサン劇場の企画・運営を行っているクレンツ映像株式会社営業部の戸村文彦(とむらふみひこ)さん。
戸村さんは根っからの映画好きで、大学卒業後、ご縁があって同社に入社。崖っぷちの劇場を全国から映画ファンが駆けつけるようになるまで20年以上にわたって支えてきた立役者の一人です。
学生時代には梅田の映画館でアルバイトをしていたという戸村さん
塚口サンサン劇場は1953年、前身となる塚口劇場という名前で阪急塚口駅前にオープン。当時はあたり一面田んぼだったそうですが、3年後には第3劇場まで拡大。
館内に展示された1975年の塚口劇場の写真
1970年代中頃から始まった駅前開発時に3館は取り壊され、1978年に今の場所へ移転し、塚口サンサン劇場として再スタートしました。
館内に展示された1975年の写真。第三劇場前の様子
現在は1階に1つ、地下2階に3つのスクリーンを有し、多い時には1日10数本ほどを上映しています。
新作や過去の名作、アニメなど、コアな映画ファンからライトな映画ファンまでカバーする、幅広いラインアップです。
塚口サンサン劇場の公式サイトはこちら
この日のラインアップが貼り出されたボード
塚口サンサン劇場が今日に至るまで歩んできた道のりは険しいものでした。「もう来月は閉館かもしれない」という危機に何度もさらされながらも、起死回生の大きな転機となったのが、マサラ上映でした。
マサラ上映とは、インド発祥の映画の上映スタイルのこと。日本では映画は静かに観るものですが、インドでは劇中歌に合わせて観客が踊り、歌い、クラッカーを鳴らし、紙吹雪を撒きながら鑑賞するという、独特の映画文化があるそうです。
マサラ上映は日本の他の映画館でも取り入れられていますが、その中でも特別な盛り上がりをみせているのが、塚口サンサン劇場です。スタッフ総出のユニークな取り組みがSNSで徐々に広まり、「いつも何か面白いことをやってくれる映画館」として全国に知られるようになったそうです。
熱気と興奮が渦巻く、マサラ上映!
塚口サンサン劇場ではインド映画に関わらず、欧米作品やアニメでも、踊ったり音を鳴らしたりできる体感型のイベント上映を行っており、それらを「マサラ上映」と呼んでいます。
おしらべ係は、2月某日に「マサラ上映」が行われると聞いて潜入してきました!
この日上映されたのは、人気アニメ『KING OF PRISM』シリーズの約4年ぶりとなる劇場版作品『KING OF PRISM Dramatic PRISM.1』。歌やダンスなどを組み合わせたエンターテインメントショーに魅了された少年たちが、スターを目指して奮闘する姿を描いた作品です。
スタッフお手製の上映ポスター
今回のチケットは販売開始わずか2分で完売。見事チケットを手に入れたファンは開場の2時間半前から集まり出していました。この日初めて会ったにも関わらず、交流を深めるために用意したお菓子やお土産を交換し合っていて、すでににぎやか!
おしらべ係もお土産をいただきました
中には、チケットは取れなかったものの「雰囲気を味わいたくて」と駆けつけた方までいらっしゃいました。
訪れたファンの自作アンケートマップ。北海道、東北、九州から訪れた人も!
塚口サンサン劇場のマサラ上映では、上映作品によって、使って良い応援グッズや立ち上がって良いかなど、細かいルールが設定されています。この日は発声や手拍子のほか紙吹雪、サイリウム(暗闇で光る棒)、クラッカー、タンバリン、鈴など音の鳴る応援グッズの使用がOKでした。
応援グッズは、全て観客のみなさんが持参するもの。劇場の公式ブログに記載されているルールや注意事項、SNSなどからマサラ上映を楽しむために必要な情報を集め、大量の紙吹雪を制作したり、100円ショップで道具を購入したり準備します。15キロ(推定)の紙吹雪を持って、東京から新幹線で訪れた人も!
さらに館内を探検してみると、作品に登場するキャラクターの等身大パネルやハート型の風船の装飾、フォトスポットなどが設けられています。すべて劇場スタッフによる愛のこもった手作り!上映前からみなさんのテンションは高まっています!
「スタッフの方々が作品を大切にしてくれているのが、塚口サンサン劇場を好きな理由です」と訪れたファンの一人は答えます。
展示されたキャラクターの等身大パネル
そうこうしていると、どこからか美味しそうな匂いが漂ってきました。
同劇場のマサラ上映会ではおなじみ、「タージマハル・エベレスト塚口店」のみなさん
「マサラ上映の前はエネルギー補給しておかないと、体力が持たない!」とカレーを頬張る観客のみなさん。地下2階の売店では、劇場近くのインド料理店が作品にちなんだシーフードカレーを販売していました。
イベント上映では、近隣の店舗に作品にちなんだメニューを販売してもらっており、街ぐるみでこの日を盛り上げてくださっているそうです!
そして開場の時間になると、作品の世界観を表す「プリズム(きらめき・虹)」をリアルに体験してもらおうと、スタッフが2階からしゃぼん玉で観客のみなさんをお出迎え!
心配そうにしていた戸村さんも安堵。きれいにしゃぼん玉が舞っていました!
一方、上映間近の客席はというと、普通の映画館なら薄暗くて静かなはずですが、観客のみなさんは紙吹雪やサイリウムのスタンバイで忙しく、上映前とは思えないざわめきです。
そんな中、「戸村さ~ん!!」という黄色い歓声と、早くも舞い散る紙吹雪をかき分けながら、戸村さんが後方の扉から舞台へ登場!
「今日は阪急電鉄の取材が入っています!」という紹介で、大歓声をいただきました!
上映前の注意事項を説明する”前説”の時間です。
観客のみなさんとのコールアンドレスポンスを交えながら、まじめに楽しく会場を盛り上げる姿は、いち会社の営業部員ではなく、“エンターテイナー戸村”です!
(ちなみに、過去には映画の主人公に扮した格好で登場したり、踊ったり、寸劇を披露したりしたこともあるそうです)
そしていよいよ上映がスタート。
本編前に流れる“映画泥棒”の告知映像が始まると、観客のみなさんは早くも大盛り上がり!クラッカー、紙吹雪、歓声の嵐!このまま映画の最後までエネルギーを保てるのか心配になるほどです。
映画館とは思えない光景
その勢いのまま本編へ突入。
映画のシーンに合わせて一緒に歌ったり、セリフを言ったり、サイリウムで決めのポーズをしたり。休む暇は一切ありません!よく見ると、観客のみなさんの膝の上にはカゴが。何種類もの応援グッズを素早く使いこなすため各自用意してきたもので、その準備の完璧さに驚きます!
こうした道具はすべて観客のみなさんが自前で用意
登場するキャラクターのテーマカラーに合わせて、サイリウムの色も変化!
この日は雪が舞うほど冷え込む真冬日でしたが、場内は真夏のような暑さと熱気!
「楽しすぎます!最高です!」と観客のみなさんは興奮!
本編終盤の息をのむシーンでは、あれほどにぎやかだった場内が一瞬だけピタリと静かに。一体感に包まれました。
約1時間の上映は、最初から最後までアクセル全開、ボルテージは上がったままラストを迎え、気づけば床は紙吹雪の山で足が埋もれるほどに!
床はどこにも見えません……足首まで埋もれています
熱気冷めやらぬ中、再びステージに戸村さんがマイクを持って登場。
「みなさん、集合写真を2カット撮ります!1枚はSNSで拡散していただく用の写真、もう1枚は、すぐに出力して出口でお客様一人一人にプレゼントします。プレゼントした写真は、SNSへのアップはお控えください。この空間を一緒に味わった人だけの、大切な思い出にしてください」
上映後の記念撮影会
最後は全員立ち上がり、長年、撮影を担当している映画館フォトグラファーが、この日一番の観客のみなさんの笑顔をカメラにおさめて終了。紙吹雪と熱気は会場の外にまであふれ、観客のみなさんの表情は何かを成し遂げたような満面の笑顔になっていました。
写真提供:関西キネマ倶楽部
人の魅力に、人が集まる
ところで、場内に埋め尽くされた大量の紙吹雪とクラッカーの紙。いったい誰が片付けるのでしょう……?
スタッフに尋ねてみると「私たちです」と一言。
正しい分別を行うために、毎回スタッフが総出でかき集めるそうで、映画館の仕事の一つが紙吹雪の回収とはなんだか不思議です。
「今日は量が多いので2時間くらいはかかりそうですね」と答えるスタッフ。大変そうに思いますが、楽しそうにも見えます。
戸村さんも床に這いつくばって紙吹雪をかき集める
マサラ上映をはじめとしたイベント上映は、月に1回、多い時で3回ほど行っている特別なイベント。企画、準備、片付けなど、どう考えても普通の映画館よりも大変な仕事のはずです。
スタッフが制作した近日に上映される作品のポスター。その数60作品以上!
スタッフは現在約20人。これまで「どうすればお客様に喜んでもらえるか」という一心で、やれることはなんでもやってきたと言う戸村さんの思いはスタッフにも浸透していて、柔軟にアイデアを出したり、工作が得意なスタッフがイベント上映に合わせて巨大な段ボールアートを制作したり、各自が得意分野で力を発揮しているそうです。
「日本一トイレがきれいな映画館」を掲げるのも、お客様へのおもてなしの一つ。上映が始まり人の流れが止むと、スタッフが即座にトイレを掃除しているそうです。
床にも鏡にも水滴が一つもついていないほどピカピカ!
「戸村さんの考えや人柄が魅力的なんですよ。だから、ここで働こうと思ったんです」
「なぜか、この劇場や戸村さんを助けたくなるんですよね」
スタッフに戸村さんはどんな人かと尋ねてみたら、こんな声が聞こえてきました。
開場直前、スタッフとスタンバイする戸村さん
そして戸村さんも
「こうして運営できているのは、劇場スタッフのおかげです。本当に皆優秀で、いつも助けられています」
と言います。
いつでもどこでもオンラインで映画が観られる時代にも関わらず、塚口サンサン劇場は通常上映でも着実に来場者が増えていっているそうです。
ぶれない軸を持った戸村さんや、その思いに共感した人たちの魅力もまた、塚口サンサン劇場のファンを増やしていっている理由のはずです。
“エプロンでも気軽に来られる映画館”
この言葉は、塚口サンサン劇場の公式ブログに書かれた自己紹介の一文です。
2020年のコロナ禍で緊急事態宣言が出された時、「不要不急」とされた映画館。塚口サンサン劇場も約2ヶ月の休館を余儀なくされました。
「映画館に行くことが、日常にまだ根付いていないことを痛感しました。公園を散歩したり、スーパーに買い物に行ったりするのと同じように、映画を観ることが当たり前の文化になってほしい」
というのが、戸村さんの願いです。
劇場の扉には、映画館監督や出演者のサインが
「2カ月の休業で、もうお客様は戻ってこないと思っていました。ですが、休業明け初日の朝、シャッターを開けに外へ出たら、お客様がたくさん並んでくださっていたんです。あの光景は忘れられません」
街の映画館に、明るい希望が見えた瞬間だったそうです。
「劇場は“体験する場所”。音響にこだわる、という新たな方向性を立てて運営しています。塚口サンサン劇場だからこそできる、ここでしか体験できない空間を作って、みなさんに足を運んでもらいたい」
と、最後に戸村さんは改めて決意を語りました。
取材を終えて
休業明けの感動的な話には、実は続きがあります。
喜びに浸るのもつかの間、突然チケット引き換え機が故障し、手書きでチケットを用意する対応に追われたそうです。「サンサン劇場に、こうしたトラブルはつきものなんです(笑)」と、戸村さんは笑って教えてくださいました。
戸村さんが執筆された本『まちの映画館 踊るマサラシネマ』(西日本出版社)には、悲劇と喜劇が織り交ざる、波乱万丈の塚口サンサン劇場の歴史が詰まっていました。まるで1本の映画を観ているような、どんなピンチにもアイデアと行動力で前に進む姿に勇気が湧いてきます!
塚口サンサン劇場公式Xのゆるいつぶやきも、見ていて和みますよ。
https://x.com/sunsuntheater
最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。阪急沿線おしらべ係では、阪急電鉄だけでなく、グループ会社(能勢電鉄、阪急バス、阪急タクシー)など阪急沿線に関する質問も受け付けています。
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