【阪急沿線おしらべ係 第68回】
自然災害などを想定した非公開の訓練の様子を取材しました!
【2025年1月配信】
このコーナーでは読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。
今回は読者の方からお寄せいただいたこちらの質問がテーマ!
阪急電鉄で実施している異常時対応訓練について、その様子と関わる社員さんの姿を知りたいです
おしらべ係では2024年11月に異常時を想定し関係する各部署が参加した総合訓練である「本部合同訓練」の様子を特別に取材させていただきました。
訓練前の平井車庫の様子
本部合同訓練ってどんなもの?
停車した車両から車外へお客様を避難誘導する訓練
本部合同訓練は、毎年運輸・技術系の各部門が自然災害や異常事態の発生で列車運行が続けられない場面を想定し、お客様に迅速かつ確実に安全な場所へ避難していただく避難誘導訓練や、障害が発生した鉄道設備を早期に復旧させるための復旧訓練を行うものです。この訓練は非公開で実施されていますが、実際に訓練する人だけでなく多くの関係者が参加しています。このことから、本部合同訓練が阪急電鉄においていかに重要なものと考えられているかがわかります。
これまでにも、阪急電鉄が所有する西宮車庫や桂車庫、正雀車庫などで、トラックとの接触事故、車内にて刺傷事件が発生した時など様々な状況を想定した訓練が実施されてきました。
2024年度は宝塚市にある平井車庫にて本部合同訓練を実施しました。
架線復旧訓練の様子
本部合同訓練の現場へ!
青空のもと平井車庫で本部合同訓練が実施されました。本部合同訓練の第一部は避難誘導訓練、第二部は鉄道設備の復旧訓練を行います。
2024年度の避難誘導訓練では、避難するお客様役として平井車庫の近隣にある雲雀丘学園小学校3年生の生徒さん144名と車いすを利用するお客様2名も参加されていました!小学生の皆さんにお客様役をお願いしたのは初めてです。
毎年実施している本部合同訓練ですが、これほど多くの外部の方に参加してもらうのは初めてとのことで、社員のみなさんの顔にも緊張感が見られました。
震度5強以上の南海トラフ地震発生を想定!第一部避難誘導訓練
今回第一部の避難誘導訓練に参加したのは、左から宝塚線運輸課運転係の首席助役 橋本典和(はしもとのりかず)さん。車掌や運転士を経て現在は首席助役として乗務員の出退勤管理や指導業務に就いています。
続いて運転士の窪田大輝(くぼただいき)さんは、営業スタッフ、車掌を経て2021年より運転士として勤務。車掌の中西佑太(なかにしゆうた)さんは、2020年に入社し2022年より車掌として勤務しています。今回の第一部本部合同訓練では、この3名が実際の訓練に臨みます。
訓練での想定
震度5強以上の南海トラフ地震が発生。列車の移動ができず、係員の詰所や駅からの応援者が来ることができない状況とし、場所は阪急十三駅(津波浸水区域)近辺で駅間に電車が停止したことを想定。
2編成にお客様が乗車されていることを想定し、訓練スタート。では、写真を交えながら訓練の様子をご紹介します。
第一部避難誘導訓練スタート
地震が発生し、列車が脱線、駅間に停車したと想定しています。
脱線した列車の運転士は列車同士の衝突を防ぎ、避難するお客様の安全を確保するために、反対車線の列車を停止させるべく線路上を走り、旗で停止を要請する合図を送ります。
その間、脱線した列車の車掌は車内放送で乗車中のお客様に列車の状況と案内があるまで車外に出ないよう説明します。お客様に不安感を与えないように落ち着いたやわらかな口調を心がけておられる様子が印象的でした。
運転士が避難経路の安全確認を行い、車掌は車内に搭載している非常梯子を設置。お客様に避難していただくための協力者を募り、まずは乗車中の小学生や移動が困難な車いすをご利用のお客様を誘導します。
まず、車いすをご利用のお客様から避難していただきます。
車外に出たお客様二名にお手伝いいただき、両脇から抱えて安全に避難してもらいます。
避難の方法は2パターン、乗車扉または先頭車両の梯子で避難します。
続いて乗客役の小学生が避難します。ホームに停車していないため、電車の扉は大人の腰より高い位置になります。この高さから車外に出るのは、小学生のように小柄な方や体が不自由な方には難しく、運転士や車掌だけですべての方を避難させるのは困難なことがよくわかります。車内で協力してくださる乗客の方にお手伝いいただきながら全員の避難が続きます。車掌から「乗車扉からの避難が難しければ先頭車両の梯子をご利用ください」というアナウンスも随時あり、混乱もなくスムーズな避難が続きます。
梯子や乗車扉の出入口から、順に避難誘導を行いすべてのお客様が降車し、線路外に出られたことを確認できたら本部に報告、避難が完了します。
雲雀丘学園小学校の生徒さんたちはきびきびと避難していました。
最後は避難訓練に参加した雲雀丘学園小学校の生徒さんたちから「よい経験となりました」という言葉をもらい、第一部避難誘導訓練は終了しました。
雲雀丘学園小学校ホームページに記載された本部合同訓練の様子
第一部避難誘導訓練を終えて…
今回想定した訓練に対応するシナリオ作成や乗務員の練習にも関わったという橋本さん。「車いすをご利用のお客様を車内から避難誘導した経験がなかったので、事故なく避難誘導ができるか不安でした」。
脱線した列車の運転士を務めた窪田さんは、「車掌と何度も事前に打ち合わせを行い、お客様に安心して避難していただくために、まずは自分たちが落ち着いて、冷静に行動することを心がけました」。
車掌の中西さんも「今までの訓練でも経験したことがないくらいの規模の避難誘導だったので、スムーズに避難していただくことを念頭に、聞き取りやすくわかりやすい放送を意識しました」。その甲斐あって、みなさん焦る様子もなく、でも緊張感を持って冷静に的確に訓練されていて、これなら有事でも安心できると思えました。
最後は常にお客様の命をお預かりしていることを忘れず、常日頃からイメージトレーニングを行い、同僚ともコミュニケーションをしっかり取って日々の業務にあたっていきたいと強く語ってくれました。
列車が脱線し、各設備が故障したことを想定!第二部復旧訓練
続く第二部の訓練は避難誘導が完了したあと脱線した列車や故障した設備の復旧訓練です。これらの訓練は技術部が担当しており、その中でも4つのグループに分かれて同時進行します。
第二部の訓練も写真を交えながらご紹介します。
線路が沈下! 地震により沈下した線路の復旧訓練
1つめのグループは施設部門。地震によって大きく沈下した線路の整備と列車が走行しても問題ないか確認をします。
保線課宝塚線係 中岡想(なかおかそう)さん
線路を整備し、砕石の補充や整理を行います。
線路をジャッキで浮かせて、まくらぎの下に砕石を入れて整備し、ミリ単位で線路がゆがんでいないかを確認します。
日々線路の点検や整備を行っている中岡さんは、今回の訓練で「いつどのような災害が起こるかわからないからこそ、このような訓練を行う大事さを実感しました。普段から線路を歩いて点検しているので、いつも利用されているお客様の目に留まることもあると思うのですが、“この人たちが管理してくれているから安心”と思ってもらえる存在になれれば」。と話してくれました。
地震によって傾斜した架線柱や電車線の復旧訓練
続いて2つめのグループの訓練は、地震によって傾斜した架線柱や電車線の復旧を行います。
電力課宝塚線係 総括主任の花木克典(はなきかつのり)さん
傾いた電柱を、これ以上傾斜させないため、仮支線の取り付けなどを行います。
絶縁梯子にのぼり、電車線の損傷箇所を復旧します。
普段から、電路設備や変電設備の保守メンテナンスを行っている花木さん。今回の訓練では復旧状況を順次指令に報告していく担当で、「訓練当日までの準備も多かった」と話します。作業の方法や準備を係員に周知させ、他部署と作業場所が重ならないよう調整も大変だったそう。その結果、普段通りにきちんと訓練できていたとのこと。「いかなる作業において【怪我をしない・させない】を念頭に、周囲の状況を見極め、作業していきたい」。そういったことを改めて強く感じた訓練になったそうです。
信号・通信設備の復旧訓練
3つめのグループの訓練は、地震により列車運行に必要な信号・通信設備の復旧訓練。踏切にある障害物検知装置の復旧作業を行います。
信通課宝塚線係 総括主任 齊藤幸雄(さいとうゆきお)さん
障害物検知装置を支える、仮の土台設置作業を行います。
仮の土台を設置し、予備の障害物検知装置を取り付けケーブルに接続。復旧が完了したことを報告します。
列車運行に必要な信号機や踏切設備、列車無線設備など保守メンテナンスを幅広く行う齊藤さん。
今回の訓練では、障害物検知装置の復旧作業に当たる作業員のまとめ役を担当。訓練に向けて練習を重ねたことで、スムーズに復旧できたんだそう。ただ、有事の際にスムーズに復旧ができるか、復旧時間を正確に予測できるかなどの課題も見つかったと話します。「信号・通信設備は時代に合わせて高機能な安全設備も順次導入されており、維持管理において高い技術レベルが求められています」とのこと。「だからこそ保守点検の技術をしっかり継承し、点検時にいかに異常に気付くことができるか、若手とのコミュニケーションも増やしながら過去の経験や事例を共有して役立てていきたいと考えています」と話してくれました。
電車の脱線復旧訓練! 不回転となった車輪を搬送仮台車※を用いて列車回送する訓練
4つめのグループの訓練は、列車の脱線復旧用の機材を使用し、脱線した列車を復旧、および不回転となった車両を搬送仮台車にのせて走行可能とする訓練です。
※搬送仮台車 故障などにより車輪が不回転となった列車を車庫まで回送するための復旧器具。
検車課 右から宝塚線検車係の総括主任 竹内寿仁(たけうちとしひと)さん、白山裕己(しらやまゆき)さん
普段は車両の点検整備や洗車作業などを担当しています。
車両の下に車体を持ち上げる脱線復旧用の機材を設置し、持ち上げた車輪の下に、搬送仮台車を線路上を転がして設置します。
搬送仮台車設置完了。
今回の訓練において準備や本番まで何度か予行演習をしたそうで「車輪が正しく搬送仮台車に乗らないと走行できないため、少しのズレも許されない慎重な作業が必要」と竹内さん。また「狭隘箇所(きょうあいかしょ)で脱線した想定での訓練であったため、脱線復旧作業が円滑に行えるよう事前の打ち合わせを綿密に行いました」と白山さん。
お二人とも「自然災害はいつどこで起きるかわかりません。また訓練の時は天候に恵まれましたが、昼夜どちらに起こるのか、さらに作業がしにくい場所で起こるかもしれません。必ずしも今回のようにスムーズに復旧できるものではないので、様々な想定をして、準備や咄嗟の判断力を鍛えるよう、日頃の訓練や教育に臨む必要性を実感しました」と話してくれました。また「日々職場内で係員同士のコミュニケーションを図り、有事の際にもお客様に安全・安心で快適なサービス提供が行えるよう尽力していきたい」ということもお聞きしました。
第二部本部合同訓練を終えて
訓練内容は、日頃なかなかお客様が目にすることが少なく、係員同士の連絡や専門的な技術が多く求められる分野での訓練です。社長の講評でも「技術部はチームワークの良さや強さが求められる業務が多いと思います。日頃から係員同士の連携作業が大切であり、お互いの関係性を築いて普段から.業務にあたって欲しい。そして【速さよりも、正確に、より安全に】を心がけてもらいたい」と話され2024年度の本部合同訓練は終了しました。
まとめ
技術部の訓練の様子
2025年は、阪神淡路大震災が発生してから30年。日本全国で大規模な地震が発生し、南海トラフ地震対策の必要性も求められています。今回、初めて本部合同訓練を取材し、これほど大掛かりで緊張感を持った訓練が毎年行われているということに驚きました。また訓練に参加する当事者だけでなく、自らの技術や専門性を高めようと参加している方も多くいらっしゃったのが印象的でした。
様々な部署の人が本部合同訓練に参加しました
その全員が「安心・安全」を考えて、万が一の時を想定し訓練にあたっていることを知れたことで、「阪急電鉄ならいつでも安心!」と心強く思える貴重な機会となりました。
阪急電鉄の過去の合同訓練の様子はこちら
https://www.hankyu.co.jp/story/anzen/training/report01.html
阪急電鉄の過去の復旧訓練の様子はこちら
https://www.hankyu.co.jp/story/anzen/training/report02.html
阪急電鉄の安全の取り組みについてはこちら
https://www.hankyu.co.jp/story/anzen/approach/index.html
阪急電鉄の安全報告書
https://www.hankyu.co.jp/company/approach/anzen/index.html
最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。阪急沿線おしらべ係では、阪急電鉄だけでなく、グループ会社(能勢電鉄、阪急バス、阪急タクシー)など阪急沿線に関する質問も受け付けています。
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