【阪急沿線おしらべ係 第65回】
昔あった紙券から最新の乗車券(QR)までの歴史に迫る!

【2024年10月配信】

このコーナーでは、読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。

今回はこんな質問が寄せられました。

「6月からデジタル乗車券「阪急1dayパス」が始まりましたね。デジタル乗車券とはどんなものなのでしょうか?どのスマートフォンでも利用できるのでしょうか。万が一、スマートフォンのバッテリーがなくなった場合どうなりますか?色々と気になっていますので調査をしていただければと思います」。

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2025年の大阪・関西万博に向けて始動した次世代乗車券

おしらべ係もとても気になっていたデジタル乗車券。さっそく乗車券業務を担当されている都市交通事業本部 都市交通計画部 課長補佐の小谷光範(こたに みつのり)さん、坂田浩通(さかた ひろみち)さんに取材をさせていただきました。


大阪梅田駅のデジタル乗車券読み取り機付きの改札機の前にて

まず、お二人の経歴について簡単にご紹介します。
(写真右)小谷さんは阪急電鉄入社後、車両部工場課に配属、1993年から運輸部営業担当、2000年より現職。運輸部では、駅務機器の業務を担当し1989年にスタートした磁気カード「ラガールカード」に携わられたほか、乗車券全般の業務を担当されています。

(写真左)坂田さんは阪急電鉄入社後、運輸部神戸線運輸課に配属、1991年に阪急コンピューターサービスへ、2003年から株式会社スルッとKANSAI、2010年より現職。株式会社スルッとKANSAIでは、2004年にスタートしたICカード決済サービス「PiTaPa」に携わっておられました。

それではさっそくお話をうかがっていきましょう。

紙から磁気、ICを経て、最新はQRコードを使った乗車券も登場!?

皆さんも通勤や通学で改札機を通られる際に、写真に写っている機械が取り付けられていることにお気づきでしょうか?
現在は各駅の改札に1台ずつ取り付けられており、今後も必要に応じて順次整備が進められていきます。


読み取り機付きの改札機は今後も整備が進む


デジタル乗車券を使用したサービス「スルッとQRtto」のロゴマーク

デジタル乗車券の正式なサービス名は「スルッと QRtto(スルッとクルット)」。スルッとKANSAI協議会加盟事業者のOsaka Metro、大阪シティバス、近畿日本鉄道、京阪電気鉄道、南海電気鉄道、阪急電鉄、阪神電気鉄道の7社がサービスを提供、6月に運用がスタートしました。
鉄道・バスの乗車券や、観光施設もご利用いただけるお得なチケットをスマートフォンで購入しQRコードで利用できるサービスです。

環境に優しく、通信環境の発達など時代の流れを汲(く)んだデジタル乗車券


今後はますます利用が増えると予想されるデジタル乗車券

最初にQRコードを使ったデジタル乗車券とはどんなものか、そのメリットなどについて小谷さんにお聞きしました。

「デジタル乗車券はQRコードを使った乗車券のことで、改札機を通る際、専用のリーダーにスマートフォンに表示されたQRコードをかざすことで、チケットレスで乗車できるというものです。阪急電鉄では現在、阪急全線(神戸高速線を除く)がフリーで乗車できる「阪急1dayパス」を発売していますが、今後は徐々に種類を増やしていく予定です」と小谷さん。

QRコードを利用するメリットについては主に次の3点があげられるそうです。

  1. 磁気乗車券は駅で購入する必要がありますが、デジタル乗車券は自宅にいながら、また移動中など、スマートフォンから購入でき、チケットレスで乗車が可能です。
  2. 紙や磁気カード、ICカードなどの物理的な媒体がないため環境に優しい。
  3. 乗車券が改札機の中を通らないため、乗車券が機械の中で詰まるなどのトラブルが無くなり、お客様の通行を妨げない。


6月から各駅に導入されているデジタル乗車券読み取り機

お得に電車に乗れたり、施設の特典などがついていたりする企画乗車券ですが、さらに便利に、環境への配慮といった視点が加えられたのがデジタル乗車券なんですね。


改札機を通る際はスマートフォンをかざすだけ

次は、デジタル乗車券をリーダーで読み取る際に、改札機の中でどのように情報処理が行われているのか、坂田さんにその仕組みについてうかがいました。
「磁気乗車券や交通系ICカードの場合は、改札機自体が乗車券判定や運賃計算を行っています。一方、デジタル乗車券は遠くにあるセンターサーバーが乗車券判定や運賃計算を行います。このような仕組みを、ABT(Account Based ticketing/アカウント・ベースド・チケッティング)方式と言います。通信環境が発達し、データを瞬時に処理できるようになったからこそ実現したのがデジタル乗車券といえますね」とのこと。

2025年には大阪・関西万博を控え、開催期間は多くの方が来日、来阪されることが想像されます。乗車券の購入から、万博会場や観光地などを含めた関西エリア内の移動まで、スマートフォンだけで済んでしまえば、よりスムーズにお出かけができそうですね。

気になるデジタル乗車券の購入方法は?

今後ますます注目を集めそうなデジタル乗車券。購入方法についてもご紹介します。

購入はスルッとQRtto(くるっと)(https://surutto-qrtto.com/)の公式サイト内のチケット販売にアクセス後、ホーム後画面よりログインし、会員登録を行います。

カテゴリーやキーワードで購入するチケットを検索できます。

最後にクレジットカードの情報を登録し、料金を支払います。
デジタル乗車券で鉄道を利用する際は、乗車券をQRコード読み取り部分にかざしてください。

また、「どんなスマホでも利用できるのでしょうか。また万が一、スマートフォンのバッテリーがなくなった場合、どうしたら良いのでしょうか?」という質問についても教えていただきました。
「スマートフォンのキャリアや機種によって使用できないということはありませんので、ぜひご利用いただければと思います。ただ、スマートフォンの電源がなくなった場合は他の決済と同じように使用はできなくなりますのでご注意ください」とのことです。

乗車券の歴史についても知ろう!

今回は最新の乗車券について取材しましたが、せっかくですので乗車券の歴史にも触れてみたいと思います。
以下に出てくる乗車券は、阪急電鉄の社内資料から撮影したものを含みます。現在では手に入らないものも多く、初めて見たという方もいらっしゃるかもしれません。

乗車券は鉄道発祥の国イギリスで誕生

鉄道乗車券の歴史は、19世紀前半のイギリスにまでさかのぼります。日本で鉄道乗車券が誕生したのはイギリスから鉄道技術が伝わった1872年、新橋―横浜間開通の際に乗車券システムも同時に導入されています。

昭和初期までは、改札に立つ駅員さんが一人ずつ切符を確認していた

明治から昭和の時代にかけては、分厚い紙の乗車券(硬券)を窓口で購入した後、改札を通る際には、鋏(はさみ)を手にした駅員さんが一人ひとりの乗車券を目視で確認、ハサミで一部を切り落としていました。目的の駅に着き、改札を出る際は駅員さんに切符を回収してもらっていました。
乗車券の購入から改札を通る時まで、すべて人を介して確認作業が行われていました。


1967年、全国初の自動改集札機が設置されて開業した北千里駅(提供:阪急電鉄)

その後、阪急電鉄では1950~1960年代に薄い紙で作られた乗車券(軟券)も取り扱える券売機の設置が進んでいったようです。


開業時の北千里駅に設置された自動券売機(提供:阪急電鉄)

懐かしい方も多いのでは?硬券の次に誕生した軟券式乗車券について

ここからは阪急電鉄社内資料から、昔の乗車券について紹介します。


1980年ころまで利用されていた紙の乗車券

硬券と呼ばれる分厚い厚紙の乗車券の次に誕生したのが、同じ紙の乗車券でありながら、薄くて丈夫な紙でできた軟券です。透かし模様や、乗車した駅のハンコを押すスペースである丸い空欄部分が確認できますね。

1980年代には阪急電鉄に磁気式乗車券の券売機が登場


裏面に磁気層を施した乗車券

乗車券には日付、子ども運賃ほか様々な情報が印字されるようになっています。こちらは見覚えがあるという方もいらっしゃるのではないかと思います。券売機で乗車券を購入し、改札機に投入する現在の方式が始まりました。

定期の乗車券が誕生したのはいつ頃のこと?


現在はほとんど見かけなくなった磁気の定期券

各種乗車券を調べていく中で、定期券はいつから発売されたのかについても調べてみました。

日本民営鉄道協会のサイトでは定期券の歴史について次の通り紹介されています(一部抜粋)。

「あらかじめ決められた期間と区間内であれば、何度でも自由に乗車できる割引乗車券のことを「定期乗車券」といい、略して「定期券」といいます。1か月、3か月、6か月定期が普通ですが、一年間の定期を発売している会社もあります。
運賃が割り引きされる定期乗車券が日本に導入されたのは1886(明治19)年のことです。初めは旧国鉄の上等・中等(その後1、2等)だけを対象としたもので、運賃の高い上等・中等の利用者を募る「販売促進」を目的にしていました」とあります。

阪急電鉄社内の資料を確認しますと、阪急電鉄開業の1910年には「定期運賃」の記載がありました。定期券という制度にもこんなにも古い歴史があるとは驚きですね。

1989年、キャッシュレス化の波を受けてプリペイドカード「ラガールカード」が登場

プリペイド(pre=事前に、paid=支払った)カード「ラガールカード」の登場は1989年。


ラガールカード発売開始のキャンペーンの様子(提供:阪急電鉄)

ラガールカードは購入した額面分、乗車券として使用できるというもので、当初は券売機で乗車券と引き換える必要がありましたが、1992年には改札機に直接ラガールカードを通せるようになり、ラガールカードで改札を通れる「ラガールスルー」という愛称も生まれました。


1992年、改札機に直接ラガールカードを通すことができる「ラガールスルー」というサービスがスタート(提供:阪急電鉄)

券面に自由なデザインを施すことができたため、記念カードなども多く企画されました。季節ごと、シリーズものなど、収集したという方も多いのではないでしょうか。

2004年、世界初のポストペイサービス「PiTaPa(ピタパ)」がスタート


2004年8月1日に行われた IC決済サービス「PiTaPa」開始セレモニーの様子(提供:阪急電鉄)

1996年、阪急電鉄、能勢電鉄、北大阪急行電鉄を含めた5社局でスタートしたスルッとKANSAI協議会が運営する関西圏の共通乗車券「スルッとKANSAI」がスタート。また、2004年には後払い方式のICカードによる交通乗車とショッピングサービス「PiTaPa」が導入され、パスケースに入れたまま専用改札機を通過するだけという利便性に注目が集まりました。

同時に阪急電鉄グループでは、クレジット、キャッシング、ポイントなどのサービスを付加した「HANA PLUS(ハナプラス)カード」もスタートしました。

これからも時代のニーズにこたえて変化し続ける乗車券

毎日の通勤や通学、お出かけでご利用いただいている乗車券ですが、ICカードであったり、スマートフォンアプリのQRコードを乗車券にしたりと、数十年で驚くほど進化した乗車券。今後もさらに便利になっていく乗車券から目が離せません。

※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です。

最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。阪急沿線おしらべ係では、阪急電鉄だけでなく、グループ会社(能勢電鉄、阪急バス、阪急タクシー)に対する質問も受け付けています。

みなさんも気になるものや知りたいことが見つかった時は、ぜひ「阪急沿線おしらべ係」まで質問をお寄せください。

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