【阪急沿線おしらべ係 第59回】
新型車両2300系のデビューまでの裏側をレポート!
【2024年4月配信】
このコーナーでは読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。
今回は、読者の方からこんなお便りをいただきました。
先日発表された、新型車両2300系・2000系のデビューまでの裏側を調べてほしいです!
阪急電鉄は、京都線の新型特急車両として2300系を、神戸・宝塚線の新型通勤車両として2000系を新造し、今年7月から順次運行を開始することを発表しています。車両のモデルチェンジが行われるのは、2013年の1000系以来11年ぶり。
さらに2300系には、阪急電鉄では初となる座席指定サービス「PRiVACE(プライベース)」が導入されることも発表されています。とても気になる話題ですね。
今回は、まだ運行開始前の新型車両2300系を特別に取材させていただけることになりました。皆さんにも一足早く、全貌をお届けします!
正雀車庫にて2300系とご対面!
取材のために訪れたのは、2300系の車両が保管されている、京都線・正雀駅近くの正雀車庫。2300系の車両はこちら。スタイリッシュな印象で、なかなかのイケメンです!
今年7月から運行開始予定の2300系と、車両の設計を担当された阪急電鉄社員のお二人
今回取材にご協力くださったのは、阪急電鉄 都市交通事業本部 技術部 車両計画担当のお二人です。
写真左は、則武孝英(のりたけたかひで)さん。1997年に入社され、技術部に配属。主に、京都線の車両の保守・点検や車両の設計に関する業務を担当してこられました。
写真右は、川元昌夫(かわもとまさお)さん。1992年に入社され、技術部に配属。主に、正雀工場で車両の保守・点検や車両の設計を担当してこられました。
2300系の車両設計を担当されたお二人に、様々なお話を伺っていきましょう。
2300系はどんな車両?現地でいち早くレポート
2300系の開発コンセプトは「安心と快適、そして環境に配慮した新しい阪急スタイル」。
則武さんは「阪急電車の伝統でもあるマルーンカラーの車体、木目調の化粧板、ゴールデンオリーブ色の座席など、2022年度にグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞した『阪急電車』のイメージを継承しつつも、より安心で快適な乗り心地を実現するために、様々な新しい試みに挑戦しました」と話します。
グッドデザイン・ロングライフデザイン賞についてはこちらから
https://www.hankyu.co.jp/story/long_life_design_award/index.html
https://www.g-mark.org/gallery/winners/13814?years=2022
外観にはマルーンカラーとアイボリーの配色が継承されています
車両前面の窓ガラスは曲線を取り入れたデザインに変更し、時代の先端を行く阪急電車のイメージにふさわしい「疾走感」を表現したそうです。阪急電車らしいマルーンカラーが継承されつつも、“電車の顔”はより一層シャープな印象になりましたね。
2300系の車内はこちら。
2300系はセミクロスシート仕様の車両
阪急電車ではおなじみ、ゴールデンオリーブ色の座席が採用されています。やはり、阪急電車はこの座席でなければ!と思われる方も多いはずです。
座席はストライプ柄のデザイン
2300系は、バリアフリー設備の充実化にも取り組んだそう。「優先座席付近では、より多くのお客様に配慮するため、一部の吊り手の高さを通常よりも低く設定しました」と川元さん。
優先座席とその周辺はバリアフリー設備がさらに充実しています
川元さんから「色覚の多様性にも配慮して、優先座席付近の吊革のみ、マゼンタ(赤紫)色に変更しました。それにより優先座席だということが判別しやすくなります」とのお話もありました。
優先座席付近の吊革
車いすスペースには、車いすの固定具が新設されます。「車いすの固定具が設置されるのは、阪急電鉄では初めてです。国土交通省が定めている『バリアフリー整備ガイドライン』にもとづいて、設置することを決めました」と則武さん。
ほかにも、壁面の手すりを従来の1段から2段に変更したり、非常通話装置の位置を従来の連結部ドア横から乗降ドア横に変更したりと、年齢や体格に関わらずより多くのお客様が利用しやすいよう工夫を凝らしたとのこと。
車いすスペースも設備の充実化により安全性、利便性が向上しました
また、ロングシートの中間部にスタンションポール(握り棒)を増設し、お客様が座席から立ち上がる際のサポートや、立たれているお客様の安全性を向上させたそうです。
普段何気なく利用している電車ですが、安全性と利便性向上のために、こんなにも細部までこだわられていたんだと実感しました。
スタンションポールを増設するなど随所にこだわりが込められています
2300系には、安全性向上のために防犯カメラも設置されています。阪急電鉄は2027年度までにすべての車両に防犯カメラを設置することを目指しており、ほかの車両にも順次防犯カメラを設置していく予定とのこと。
2300系はすべての車両に防犯カメラが設置されています
川元さんは「お客様には見えない部分ですが、2300 系ではより快適な車内空間を実現するために、省エネルギー性能に優れたインバータ式空調装置や空気清浄機を当社で初めて採用すると共に、機器から発する音を抑え、静音性を確保できるような配慮も行っています。
さらに、最新の高効率な半導体素子を用いた省エネルギー性が高い制御装置を採用することにより、既存車両と比べて消費電力量を約60%削減でき、これまで以上に環境に配慮した電車になります」と話します。
電車は以前から、環境への負荷が少ない乗り物といわれていますが、消費電力がこれまでの車両より60%削減できるとはすごいですよね。
阪急電鉄では初となる、座席指定サービス車両にも潜入!
2300系には、阪急電鉄では初となる座席指定サービス「PRiVACE」が導入される予定です。
「PRiVACE」は今年7月からサービス開始予定
「PRiVACE」のコンセプトは「日常の“移動時間”を、プライベートな空間で過ごす“自分時間”へ」。「プライベート空間を確保したい」「着席してゆったりと移動したい」といった現代のニーズにお応えするため、新たに開始されるサービスです。
「PRiVACE」が導入されるのは、大阪方から4両目。その車両がこちらです。
阪急電車らしさは感じられつつも、洗練された高級感のある佇まいがカッコイイ!いったいどんな車両なのでしょうか。ワクワクしますね。
車両の設計コンセプトは「“自分時間”にこだわる、阪急らしい特別な一両」
1車両に乗降ドアが片側1カ所ある「1扉」仕様の車両で、外観は伝統のマルーンカラーにゴールドのラインが目をひく特別感のあるデザインです。
乗降ドア横には「PRiVACE」のロゴマークがあしらわれています
車内も特別感あふれる空間となっており、座席の配置は大阪梅田から京都河原町に向かって左側が2列、右側が1列の3列。
「PRiVACE」は、PRIVATE(プライベート)とPLACE(場所)を掛け合わせたネーミング。サービス名にもプライベート感が表現されているんですね
デッキを挟んで反対側の座席スペースでは、大阪梅田から京都河原町に向かって左側が1列、右側が2列の配置となっています。
床面にはカーペットが敷かれており静音性に優れた空間です
一般車両と比べて座面の幅や座席の前後の間隔が広く、ゆったりと座れるのも良いですよね。
「『PRiVACE』は“プライベート感”がコンセプトのサービスですので、車内の雰囲気もプライベート感を大事にしました。
2列シートの中央にはパーテーション(仕切り)を設け、ヘッドレストは周囲の視線が気にならないよう、一部をせり出した形にしています。
また、どの座席からも、同じような車窓風景を眺めることができるよう、座席一列ごとに窓を配置したのもこだわりです」と川元さん。
2列シートもパーテーションなどのおかげでプライベート感のある座席となっています
川元さんは「座席の座り心地にもこだわりました。座席をリクライニングした際は、それに連動して座面が前方に少しスライドするようになっています。
もちろんこちらも、ゴールデンオリーブ色の座席です」と続けます。
収納式テーブルなど便利な機能も備えています
各座席に収納式テーブルやコンセント、読書灯、ドリンクホルダー、荷物用フック、マガジンラックが設けられており、無料Wi-Fiも利用可能。まさに至れり尽くせり、“自分時間”を過ごせる座席となっていますね!
ひじ掛け部分にコンセントがあります
ヘッドレストには読書灯を備えています
各座席にドリンクホルダー、マガジンラック、荷物用フックもあります
また、車いすをご利用のお客様のための車いすスペースも設けられています。
車いすスペースには車いすの固定具も設置されています
「PRiVACE」は2300系および9300系の一部車両に導入され、1時間に2~3本の頻度でサービス開始予定だそうです。また、車内には「PRiVACE」車両専属のアテンダントが添乗するとのこと。快適な乗り心地やプライベート感にこだわった「PRiVACE」のサービス開始が楽しみですね!
車両はどのように作られて、運ばれてくるのか。その舞台裏
さて、いよいよ本題の「2300系のデビューまでの裏側」に迫ります。
まず、車両はどのように製造されているのか伺いました。
「車両の製造を大まかに分けると、①車両の設計、②車両や部品の製造、③完成検査、④走行試験(試運転)があり、①~④の後に本格的に運行開始となります」と則武さん。
正雀車庫にて2300系と既存車両の1300系
川元さんによると「2300系の車両の設計や製造は、日立製作所や部品製造メーカーなどの協力会社と共に進めてきました。
車両のデザインや設備、搭載機器について具体的に検討を始めたのは、2020年頃から。他社の動向調査や、専門知識や最新情報を研究するための社内勉強会を行いながら、車両の設計を進めました。
座席指定サービス車両の座席数は40席
車両の設計が完了した2023年7月からは、山口県にある日立製作所笠戸工場で実車の製造を開始。同年12月には、完成した車両の全体点検『完成検査』を行いました。
その後、車両は笠戸工場から大阪までは海路、そこから正雀車庫までを陸路で輸送され、現在に至ります。
取材させていただいた2024年2月には、車両の動作確認を行う『機能試験』を実施している段階。今後は『走行試験』をはじめ、運転士や『PRiVACE』専属アテンダントなどのスタッフの研修を行い、運行開始に向けて入念に準備を進めていきます」とのこと。
担当者のこだわりやご苦労を伺いました
2300系の車両設計を担当されたお二人に、こだわりやご苦労も伺いました。車両の設計において最も大事にしたことは、お二人とも「乗り心地」なのだそう。そのため、これまで以上に年齢や体格に関わらず、多くのお客様にとって安全で利用しやすい車両となるよう意識したのだとか。
また、川元さんは「空調装置や制御装置といった搭載機器は、その効果がお客様には見えない部分に至るまで静音性や省エネルギーにこだわり、最適なものを入念に検討して選びました」と話します。
新型車両の設計計画に携わるのは、則武さん(写真左)は今回が初めて、川元さん(写真右)は2度目だったそう
車両設計でのご苦労をお聞きすると、
川元さん「車両の設計図面は二次元なので、実車でのイメージを想像しづらい部分がありました。そのため『モックアップ』を製作したほか、既存車両である1300系の車両に2300系の吊り手などの部品の試作品を取り付けてみたり、『PRiVACE』の座席を置いてみたりして、実際のサイズ感や車内灯の光の当たり具合などを確認しました。想定通りの車内イメージとなるよう、細部まで綿密に調整を行いました」
則武さん「私は車両を設計するのが初めての経験だったので、協力会社の方々にこちらの要望が正確に伝わっていないなど、スムーズに意思疎通を行うのが難しかったです。ただ、阪急電鉄で新型車両を設計するのは約10年ぶりです。貴重な経験をさせていただいているなと思うと、その責任の大きさに気が引き締まりました」
車内での取材中は、お二人とも「2300系車両の設計は試行錯誤の連続で、大変なことも多かったですが、ようやくここまで形になりました」としみじみお話されていました
最後に、他にも車両の注目ポイントはありますか?とおたずねしたころ、
則武さんは「阪急電鉄において初めて導入されるものが、実は他にもあります。
1つ目は、マゼンタ色のクロスシートの優先座席です。優先座席はこれまで、京都線のセミクロスシートの9300系車両でもロングシートでしたので、クロスシートの優先座席は初めてです」と話します。
クロスシートとは、写真のように座席が進行方向(あるいは対面)を向いて設置されているもの。ロングシートは、座席が車体の側面に沿って設置されているものです。
マゼンタ色のクロスシートの優先座席。新鮮に感じる方も多いのではないでしょうか
則武さんは「2つ目は、座席指定サービス車両では、側面の車外表示器が窓ガラスの内側に設置されていることです。個人的には、これも注目してほしいポイントです」とのこと!
2枚の薄い窓ガラスのあいだに、液晶ディスプレイの車外表示器が設置されています
2300系車両の全貌を見て、担当者の想いを伺うと、新造車両のデビューがますます待ち遠しくなりました!
まとめ
マルーンカラーの車体やゴールデンオリーブ色の座席など、長年親しまれてきた阪急電車の伝統を継承しながらも、より多くのお客様にとって安心で快適な乗り心地を実現するために、バリアフリー設備の充実化など細部まで改良が重ねられてきたという新型車両。
京都線の2300系は今年7月、神戸・宝塚線の2000系は今年の冬以降に運行が開始される予定とのこと。最新情報は阪急電鉄ウェブサイトをご覧ください。
また「PRiVACE」についてはサービスサイトもございます。
https://www.hankyu.co.jp/privace/
さらに、阪急電鉄公式YouTubeチャンネル「阪急電車ファン全員集合!」では、新型車両に関する動画を公開しています。こちらも要チェックです!
https://youtu.be/WarkEvSlqt4
新型車両のデビューが本当に楽しみですね!
最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。阪急沿線おしらべ係では、阪急電鉄だけでなく、阪急沿線アプリで連携しているグループ会社(能勢電鉄、阪急バス、阪急タクシー)に対する質問も受け付けています。
みなさんも気になるものや知りたいことが見つかった時は、ぜひ「阪急沿線おしらべ係」まで質問をお寄せください。
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