【阪急沿線おしらべ係 第55回】
深夜のまくらぎの取り換え作業を詳しくレポート!

【2023年12月配信】

このコーナーでは読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。
今回は、読者の方からこんなご要望をいただきました。

電車の運転が終わった深夜に作業している、保線部門の方々を取材していただけませんか。
普段当たり前に利用している電車も、安全に運行できているのは保線部門の方々のおかげだと思います。

「保線」とは、列車が走行する軌道内とその周辺を常に正しい状態に保つことです。
読者からのご要望にお応えするべく、今回は保線作業のひとつである、古いまくらぎを新しいまくらぎに取り替える作業(専門用語で「更換」(こうかん)と言っています。以降「更換」という言葉を使います)を特別に取材させていただけることになりました。
まくらぎの更換は列車を運行していない深夜時間帯に行われるため、日中には見ることのできない作業です。

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「まくらぎ」とは?

最初に、まくらぎについて簡単にご説明します。
まくらぎとは、鉄道のレールの下に敷き並べられている部材の一つ。レールを所定の位置に固定して軌間(きかん:左右のレールの幅)を保ち、レールを介して伝わる車両の重さを、砕石(さいせき)に広く分散させる役割があります。
つまり、まくらぎは列車の安全な走行や快適な乗り心地には欠かせない存在なのです。


レールの下に敷き並べられているのが「まくらぎ」です

また、まくらぎには材質により種類があり、阪急電鉄では3種類のまくらぎが使用されています。
木材でできている「木まくらぎ」、鋼線を入れたコンクリートでできている「PCまくらぎ」、繊維強化プラスチック発泡体でできている「合成まくらぎ」の3種類。
ちなみに、まくらぎは一丁(いっちょう)、二丁…と数えるそうです。

深夜に実施するまくらぎ更換作業に同行しました

10月のとある日、終電後の深夜時間帯に宝塚線・雲雀丘花屋敷駅近くの平井車庫に設置されているまくらぎの更換が行われると聞き、その現場に同行させていただきました。

取材にご協力くださったのは、阪急電鉄 都市交通事業本部 技術部 保線課 宝塚線係の4名の方々です。


まくらぎの更換作業を行う保線課 宝塚線係のみなさん

写真左から、1994年に入社して以来、保線業務に携わってきたベテランの西浦恵次(にしうらけいじ)さん。2013年に入社され、今回の作業指揮者でもある川原柊太(かわはらしゅうた)さん。2021年に入社され、保線業務に携わって3年目の佐川隼也(さがわじゅんや)さん。今年に入社され、3カ月の社内研修ののち7月から宝塚線係に配属となった菅田鈴生(すげたすずなり)さん。

4名のみなさんはベテランから中堅、新人まで業務経験はそれぞれですが、普段から一緒に業務に取り組むことが多いメンバーだそうです。

まくらぎの更換作業は事前準備を万全に

取材のためにまず向かったのは、23時の石橋阪大前駅。
石橋阪大前駅には、保線課 宝塚線係の事務所があります。社員はまず事務所に出勤し、そこで必要な準備を整えてから各現場へ赴くそうです。


宝塚線の線路のメンテナンスを担当しているのは現在29名(2023年10月時点)

23時15分から、当日の昼間に打合せした夜間作業の内容について、作業指揮者の川原さんと運転指令所が電話にて最終確認を行います。


作業内容などを記載した資料を確認ながら打合せします

川原さんからはその日の作業内容を報告し、運転指令所からは列車運行の遅れの有無などダイヤの最新状況や、急遽追加で必要となった作業の詳細などが伝えられます。
23時30分からは、現場で作業を行うメンバーでミーティングを行います。


メンバーで作業内容を最終確認します

ミーティングでは、まず全員の体調や服装のチェックを行った後、作業現場の写真を見ながら、その日の作業工程や役割分担、使用する機材などを一つひとつ細かく確認します。


「声掛け良し、声掛け良し」と声に出すとともに、全員の体調や服装も念入りにチェックします

ミーティングが終わったら、作業に必要な機材をトラックに積み込み、今回の作業場所である平井車庫へ移動します。


トラックで事務所から約15分の場所にある平井車庫へ向かいます

深夜のまくらぎ更換作業の現場に到着

0時30分頃、今回の現場に近い平井車庫に到着しました。


昼間とは違った雰囲気の深夜の平井車庫

作業現場までは、機材や新しいまくらぎを「トロ」とよぶ台車に載せて運びます。このトロには車輪がついており、レールの上を手で押して進むことができます。


現場まで機材を運搬するトロ

新しいまくらぎは、重さ120kgほど!線路内にはフォークリフトが入れないため、約120㎏のまくらぎもトロや人力で運ぶそうで、使用する機材もすべて人力で運びます。なかなか体力のいる仕事ですね。


せーの!という掛け声を合図にまくらぎを持ち上げてトロに積みます

レール上を滑らせるようにトロを押しながら現場へ向かいます。


現場までは線路上を歩いて向かいます

10分ほどで現場に到着しました。


各々が機材の準備などを始めます

川原さんによると、「まくらぎをレールに固定している釘が浮いてきたら、まくらぎを更換するタイミングです。釘がしっかりと固定されているということは、まくらぎがまだしっかりしているということ。4~5年くらい経験を重ねると、感覚で更換時期を判断できるようになってきます」とのこと。

まくらぎ更換、レールのゆがみチェック、清掃までを約3時間で完了!

まくらぎの更換作業は、終電後の1時頃から始発前の4時までに完了する必要があり、作業時間は長くて3時間です。
最初に、工事表示板を設置します。工事表示板は、作業員が安全に作業するために、作業場所の両端に設置することになっています。


この工事表示板を設置することで、他の作業員への注意喚起になります

次に、まくらぎをレールに固定している釘を機械で外します。


釘は全長1.5mもあるバールという道具を使って人力で抜くこともありますが、最近は電動の釘抜き機を用いることが多くなっています

まくらぎ周辺の砕石をシャベルで取り除きます。辺りに土埃(つちぼこり)が舞うなか、スピーディに作業が進んでいきます。


砕石を取り除くのは手作業でかなり地道な作業

まくらぎを取り除きやすくするために、「レールジャッキ」という道具を使ってレールを持ち上げます。


レールに取り付けている黄色い道具がレールジャッキ。レバーを上下させるとレールの高さを調節できます

まくらぎ周辺の砕石を取り除いたら、古いまくらぎを撤去。古いまくらぎは、重さが約180㎏。3人がかりでまくらぎを持ち上げて運び出します。
写真手前が新しいまくらぎ、奥が古いまくらぎです。


まくらぎは間近にみるとサイズが大きく迫力があります

川原さんは「列車が多く走る区間ほど、まくらぎの劣化が早いです。ここは車庫線内のため、営業線と比較して通過する列車の速度が遅く、走行本数も少ないので、このまくらぎは長期間使用することができました」と話します。


新しいまくらぎを慎重に運びます

電動ドリルを使って、新しいまくらぎに穴をあけます。これはレールとまくらぎを固定する部材であるタイプレート(床版)を取り付けるためです。


電動ドリルでまくらぎに穴を開ける時に発生する木くずは、持ち帰って捨てるようにしているそう

新しいまくらぎに釘を打ち込み床版を取り付け、さらにレール締結装置という部材を取り付けてレールを固定します。


釘を打つのも大きなハンマーを使い手作業で行います

レールを固定すると、砕石を元の場所に戻します。
事前ミーティングで確認した各自の役割をこなしたり、お互いに声を掛け合ったりと、作業は常にチームワーク。経験豊富な西浦さんや川原さんが中心となり、後輩からの業務に関する質問に答えたり指導しながら作業が進んでいきます。

まくらぎ更換後の確認作業も大切な仕事です。まくらぎを更換した前後のレールの高さに凹凸がないかを確認する「拝見(はいけん)」という作業を行ったり、


「拝見」でレールの高低差などを確認する作業指揮者の川原さん

「標準ゲージ」という道具を用いて軌間を測ったりしながら、着々と作業が進みます。


標準ゲージで軌間を測定します

砕石を元の位置に戻し終えましたが、この時点ではまだまくらぎの下にある砕石の量が少ないため、このままでは列車の荷重を支えられません。
そこで、「突き固め」という作業を行います。突き固めとは、「タイタンパ」という機械で砕石をまくらぎの下に押し込む作業のことです。


タイタンパを上下に動かすことで、砕石がまくらぎの下に押し込まれます

みなさん軽々と作業しているように見えますが、このタイタンパは重さが約30㎏あるそうです。
想像していたよりも力仕事や手作業が多く、体力が必要な作業も多いまくらぎ更換。ますますみなさんに対する感謝の気持ちが湧いてきます。
レールの高低差やゆがみなどを最終確認して、この日の作業は終了です。


糸を張りレールの高低差やゆがみなどをmm単位で計測し最終確認

こうして4時前に新しいまくらぎが設置されました!


まくらぎの更換作業は約3時間で完了

まくらぎやレールに被った土埃などを洗い流すために水をまき、レール部分はさらに拭き掃除を行い、現場をきれいに片づけたら作業は完了。


現場を美しい状態にして作業を終えるため、まくらぎやレールに被った土埃などを水で洗い流します

機材をトラックに積み込み、石橋阪大前駅の事務所に戻ります。
古いまくらぎは基本的には廃棄されますが、まくらぎを小さくカットして、レールを更換する際にレールを仮置きする土台として再利用することもあるそうです。

まくらぎは新旧でどう変わったのか

今回の更換により、まくらぎは何が変わったのでしょうか。


写真左が古いまくらぎ、右が新しいまくらぎ

川原さんによると「古いまくらぎは、二丁のまくらぎをつなぎ合わせた『二丁継(にちょうつぎ)まくらぎ』と呼ばれるもの。一方、新しく敷設されたのは、一丁で普通のまくらぎ約1.5丁分の幅がある『大盤まくらぎ』です。
レールの継ぎ目部には、以前は二丁継まくらぎがよく使われていたものの、最近は大盤まくらぎを使うのが主流になっています」


レールの継ぎ目部には木まくらぎ、その周辺にはPCまくらぎが敷設されています

保線の仕事についてお聞きしました

保線業務に携わるみなさんに、仕事にまつわるお話をうかがいました。
保線業務に必要となる専門的な知識や技術は、どのように習得されているのでしょうか。


写真左から西浦さん、川原さん、菅田さん、佐川さん

菅田さん「入社後3カ月間の社内研修で様々な作業を経験しました。その後、7月から宝塚線係に配属となりました」
川原さん「係に配属されてからは、先輩から指導を受けながら、現場で実際に作業を行うことで経験を積んでいきます。保線作業は感覚と経験も必要となるため、実際にやってみないと身に付かないことも多いです」
西浦さん「今回のようにベテランと新人が一緒に作業することもよくありますが、若い世代の社員が作業指揮者となって後輩を指導する機会も設けており、若い世代の社員が成長しやすい環境を整えています」とのこと。


西浦さんや川原さんは社内研修で指導者を務めることもあるそう

仕事で大切にしていることは?との問いには、
川原さん「保線という仕事は、日々の積み重ねが大事です。たとえば日常的に徒歩により行う、付帯構造物(レールやまくらぎなど、線路を構成する構造物)などの巡回点検では、普段からすみずみまで確認するように心がけ、見つけた不良箇所をこまめに補修することをくり返して、保線作業の経験を積むようにしています。それが結果的に、列車の安全な走行や快適な乗り心地にもつながります」
一方で西浦さん、佐川さんは「周りの方とのコミュニケーションを大切にしています」とのご回答。たしかにまくらぎの更換作業でも、抜群のチームワークに驚きました。
菅田さんは「一番大事にしているのは健康管理。万全の体調で仕事に取り組めるよう、睡眠時間を確保するなど普段から心がけています」と話します。


仕事が楽しいと話す菅田さん、「私も線路の巡回点検で不良箇所がないか細かいところまで見逃さないように心がけています」と話す佐川さん

長らく保線作業に携わってきた西浦さんからは「今でも印象的なのは、1995年の阪神淡路大震災。当時私は19歳で、神戸線・西宮エリアの保線を担当していました。西宮は火災が発生するなど大変な状況でしたが、地震が起きた当日にも『何とかしなければ』との思いで出勤しました。その日の夜勤で、陥没してしまっていた武庫川橋梁を復旧させ、翌朝に試運転列車を通すことができた時には、本当にすごい仕事だなと思いました」とのお話も。
とても明るく気さくなみなさんに様々なお話をうかがえたところで、取材は終了となりました。

まとめ

まくらぎの更換作業は、想像していたよりも力仕事や手作業が多く驚きました。西浦さんによると「作業現場で使用する照明がLEDになったり、釘を抜く機械が導入されたりと細かい部分は変わってきていますが、まくらぎの更換は、昔からほとんどやり方が変わっていません」とのこと。

作業中はみなさんのチームワークもばっちり。声を掛け合って“てきぱき”と作業されている姿が印象的でした。

列車の安全な走行や快適な乗り心地のために、業務に邁進されている技術部 保線課のみなさん。取材を通して、読者の方からのご質問の通り、普段当たり前に利用している電車も、安全に運行しているのは保線部門の方々のおかげと実感することの連続でした。みなさんも電車にお乗りの際は、ぜひレールやまくらぎにも注目してみてくださいね。

阪急電鉄 技術部(施設部門)の保線・土木・建築などの取り組みはこちら
https://www.hankyu.co.jp/story/anzen/approach/doboku/index.html

最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。阪急沿線おしらべ係では、阪急電鉄だけでなく、阪急沿線アプリで連携しているグループ会社(能勢電鉄、阪急バス、阪急タクシー)に対する質問も受け付けています。

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