【阪急沿線おしらべ係 第54回】
思い出いっぱい、ありがとう!妙見の森

【2023年11月配信】

読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを調査する、阪急沿線おしらべ係。

今回取り上げるのは、63年もの間、長らく愛されてきた妙見の森。
能勢電鉄(のせでん)が運営してきた、ケーブルカー、リフト、バーベキューテラス、足湯、黒川駐車場の各施設が、2023年12月3日をもって営業を終了することが決まっています。

最後の日まであと数日。

のせでんのスタッフはこれまでどんな仕事をされてきたのでしょうか?
そして今、どんな心境でいらっしゃるのでしょうか?

妙見の森に心を寄せて。おしらべ係が現地を取材してきました。

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歴史の始まりは、100年以上前

大阪府北部と兵庫県東部にまたがる、標高660メートルの妙見山。「妙見の森」は、その中腹に位置するふれあい広場を中心とした、自然と触れ合えるレジャースポットです。
妙見の森ケーブル・黒川駅へは、阪急電鉄・川西能勢口駅から能勢電鉄に乗って、妙見口駅から徒歩約15分です。

春の桜、秋の紅葉をはじめとした四季を彩る木々や花のほか、バーベキュー施設、里山が眺められる足湯、アート作品の屋外展示など様々なスポットがあり、いろんな楽しみ方ができる場所です。


アート作品「北極星入口駅」 作:鈴木貴博、能勢電鉄

麓(ふもと)の黒川駅と中腹の山上駅はケーブルカーで繋がっており、山上駅から徒歩約5分でふれあい広場へ。
ふれあい広場と山頂エリアはリフトで繋がっており、山頂エリアにある妙見山駅から徒歩約15分で北極星信仰のお寺・能勢妙見山に到着します。
車がなくても、登山の装備がなくても、気軽に自然の中でリフレッシュすることができます。


2023年9月撮影

妙見の森の歴史の始まりは、1922年。
山上にある寺院・能勢妙見山の参拝客のアクセス向上のために妙見鋼索鉄道株式会社が設立され、その3年後に妙見ケーブルが開業しました。


昭和初期の妙見ケーブル

妙見ケーブルは、麓から山上の能勢妙見山までを結んでおり、中間地点(現・ケーブル山上駅)で上部線と下部線に分かれていました。

その後、戦時下の中、妙見鋼索鉄道は不要不急路線に指定され、1944年に金属回収命令に従い休止されましたが、1960年に能勢電鉄が引き継ぎ再開。
その際、上部線が短くなり、リフトに作り替えられて、現在の妙見の森ケーブル・リフトの形となりました。


1960年頃の妙見観光リフト

ふれあい広場周辺には、妙見山クッキングセンター(現・妙見の森バーベキューテラス)や郷土館(1988年3月に閉館)などがオープン。
以来、自然の中で一日過ごせるレジャー施設として、64年にわたって愛されてきました。


1970年前後の妙見山クッキングセンター

何でも自分たちで作ってきた、スタッフの高い技術力!

「来るたびに、何かが新しくなっている」

妙見の森へ何度か訪れたことがあれば、こう感じる方がいらっしゃるかもしれません。

「スタッフの手作りで、お客様が過ごしやすい場所へと改修を重ねてきました。担当者には技術職の人が多いから、ほとんど自分たちで手を入れてきたんです」

と答えてくれたのは、妙見の森の現場責任者である能勢電鉄営業課 妙見の森担当課長、岡本淳一さんです。


お客様を見送る岡本さん

施設やスタッフの管理はもちろん、ケーブルカーの運転から乗車券の改札、バーベキュー施設の片付け、イベントの運営まで、ありとあらゆることをこなす敏腕課長です。

妙見の森に携わるようになって20年ほど。このフィールドを育ててきた方で、妙見山に親しんでもらおうと立ち上げた「のせでんハイキング」は、今も続いています。

「スタッフが手作りしたものの中で一番の超大作は、シグナス森林鉄道です」


緑と赤がポップでかわいいシグナス森林鉄道

シグナス森林鉄道は、妙見の森を走るミニトロッコ列車で、340メートルの距離を10分でのんびりと一周する、大人にも子どもにも人気の乗り物でした。特に春は、周辺の桜と見事に調和して美しい景色が広がり、たくさんの人の笑顔を作ってきました。

実は岡本さんは、シグナス森林鉄道の運転士を務めていたこともあるそう。


シグナス森林鉄道を運転する岡本さんの写真

残念ながらシグナス森林鉄道は20年余りの運行期間を終えて、2021年12月に営業が終了。現在は現役時代の面影を残しつつ、休憩場所や新しい散策路として活用されています。

こうしたものづくりを行っていたのは、主に冬季の休業期間中。

お客様が来られなくてもスタッフはその間休むことなく、散策路の柵の製作と設置、施設の細かな修繕、本格的な遊具の製作、バーベキュー施設のピザ窯作りなどを行っていました。


スタッフが製作したバーベキューテラス内の遊具は本格的!

「もっと快適に過ごしていただきたい」「どうしたらお客様に喜んでいただけるか」。
スタッフの知恵とアイデアで手を加え続け、きれいで快適な場所を維持し、発展させてきました。


伐採した木でスタッフが作ったオブジェ「森の巨人」

「ただ、自然の脅威にはたびたび打ちひしがれました。事前に対策をしても、想像を超えることが起きますから」

大雨や台風による倒木や土砂崩れはこれまで何度も起こり、特に2018年7月の西日本豪雨では、妙見の森リフト沿いの法面が崩れ、約2カ月、妙見の森リフトが運休したこともありました。


2018年7月の西日本豪雨での被害

スタッフは一丸となってこうした苦難を乗り越え、お客様が集まる場所を守り抜いてきたのです。

これまで実施したイベントは数知れず!

妙見の森では、スタッフが自ら企画した多彩なイベントを実施してきました。

妙見の森バーベキューテラスを会場にした婚活イベントでは、開催から10年でトータル100組以上のカップルが誕生!

「このイベントで出会った2人が結婚され、その後お子様が生まれたご家族もいらっしゃいます。うれしい限りですね」と岡本さん。

妙見の森が運命の場所となり、ひとつの家族を紡いだなんて、奇跡のようです。

また、近年特に人気の企画は、謎解きイベントだそう!


営業終了日まで開催中のイベント「謎解き 宝さがしファイナル」

「謎解きが得意なスタッフが問題を作っているのですが、試しに解いてみると、これが結構難しくて挑戦しがいがある!予想以上の反響があり、皆様にも楽しんでいただいています」

「謎解き 宝さがしファイナル」は、最終営業日まで実施されているので「ぜひ楽しんでいただきたい」と岡本さん。

そして、今年9月に実施され大盛況だった「妙見の森フェスティバル」。


「妙見の森フェスティバル」では、妙見の森が多くのお客様でにぎわった

妙見の森の営業終了を発表した後に開催された大規模なイベントで、通常20分ごとに運行する妙見の森ケーブルを増発しても、乗車待ちの列が100メートルほどできるくらい、多くのお客様が押し寄せたとか。


「妙見の森フェスティバル」では、10年前のイベントで埋めたタイムカプセルの掘り起こしも

のせでんのあるスタッフは

「たくさんのお客様が集まってくださったうれしさと、まだまだこんなにお客様を集める力がある場所なんだ!と励みになった反面、こうした光景が見られるのももう最後か……と思うと、涙目になってしまった」
と、胸の内を明かしました。

最終営業日まであと数日。スタッフの思いは?

「営業を終えることを聞いた時は、冷静に受け止めました。……でも、やっぱり寂しいかな」

どんな脅威が起きても、スタッフを引っ張ってきた強い精神力を持つ岡本さんの顔が、やるせない表情になりました。

営業の終了が発表されて以降、思い出をたどりに何度も足を運ばれるお客様や、ケーブルカーの軌道を写真に残そうと訪れる鉄道ファンの方々などが後を絶たないそう。取材に訪れた9月の平日も、たくさんのお客様を見かけました。

「過去には、お客様からお礼の手紙をいただくこともありました。全て大事に保管しているんです」

「思い出深いのは、大切なおもちゃをなくしたお子様が泣きやまなかった出来事。親御さんと一緒に探したもののその日は見つからず、お客様が帰られた後も探し続けたら、見つかったんです。そのおもちゃを自宅にお送りしたら、親御さんからお礼の手紙と、そのお子様が描いたかわいらしい絵を送っていただきました」

※取材後日談

妙見の森の営業終了を聞いたこのお客様が親子でお越しになり、岡本さんと再会されたそうです!

こうした心温まるエピソードは数知れません。
妙見の森ケーブルの待合室に飾られた桜の絵も、海外からのお客様が描いてプレゼントしていただいたものです。

目の前のお客様一人ひとりと誠実に向き合う岡本さん。その姿を見て学んだ後輩たちにも、そのスピリットは受け継がれています。

「自分たちの代で妙見の森を守り切れなかったのは心残りですが、お客様の最後の思い出作りのお手伝いができたら」と、岡本さんと一緒に働くスタッフは語ります。

「自分がやるべきことは、最後まで安全に運営すること。これに尽きます」


思い出を振り返る岡本さん

妙見の森の営業終了まで、自身の仕事を誠実に全うしようとする、岡本さんの凛々しい表情がとてもかっこ良く映りました。

まとめ

家族とバーベキューを楽しんだこと、仲間とハイキングに行ったこと、桜の風景や美しい紅葉……みなさんにも、妙見の森でよみがえる思い出があるのではないでしょうか。

妙見の森では、ケーブルカーに記念ヘッドマークの掲出、記念スタンプの設置、グッズ販売など、最後を締めくくる「さよなら・ありがとう妙見の森」と題したイベントが、12月3日まで開催されています。


能勢電車内に展示された妙見の森の写真

能勢電車の一部の車内では、妙見の森の歴史を振り返る写真も展示されています。

詳しくはこちら

懐かしい思い出をたどりに、妙見の森ケーブルの最後の雄姿を見届けに、そして岡本さんたちスタッフに会いに、ぜひ訪れてみてくださいね。

のせでん公式Youtubeチャンネルでは、スタッフが急勾配の線路を歩いて上って(!)、ケーブルが動く仕組みを詳しく解説する、妙見の森ケーブル特集回が公開されているので、こちらもぜひチェックを。
https://www.youtube.com/watch?v=-e71UGVH9aE

最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。阪急沿線おしらべ係では、阪急電鉄だけでなく、阪急沿線アプリで連携しているグループ会社(能勢電鉄、阪急バス、阪急タクシー)に対する質問も受け付けています。

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