【阪急沿線おしらべ係 第49回】
ホーム幅が狭い春日野道駅にホーム柵を設置。工事の裏側をレポート

【2023年6月配信】

このコーナーでは、読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。

今回は阪急電鉄の駅ホームに設置が始まっているホーム柵の工事について、読者の方からこんなご依頼をいただきました。

「阪急電鉄のいくつかの駅でホーム柵が設置されています。私たちが見ることができない工事の裏側を知りたいです。ぜひ取材していただけませんか?」

とのこと。

おしらべ係では、3月18日にホーム柵の供用を開始したばかりの春日野道駅を阪急電鉄の担当者と一緒に訪ね、ホーム柵設置工事についてお話を伺いました。

tokko.jpg

阪急電鉄内には特別編成されたホーム柵担当チームがあるらしい

この日、阪急電鉄 都市交通事業本部 技術部に在籍している3名に同行いただきました。技術部の業務は主に、鉄道施設・車両に関する設計・施工、維持管理となっており、お客様にハード面で安全・快適なサービスを提供しています。2021年より技術部内にホーム柵担当チームが特別編成され、全駅へのホーム柵設置を目指して日々業務に取り組まれているそうです。

写真右からチームを統括する杉山さん、基礎工事の設計を担当する飯田さん、電気関係の設計を担当する阿野さん(2023年5月現在)。
この記事ではホーム柵設置工事について、各担当者の仕事内容についても簡単にご紹介していきます。

それぞれの専門分野を活かして社内外と協力

杉山さん:入社9年目。ホーム柵設置工事の全体管理、社内外の関係者との調整などを担当されています。

飯田さん:入社11年目。ホーム柵設置に必要となるホーム改良などの基礎工事に関すること全般を担当。各駅で異なるホームの形状など設置環境に対応するために、ホーム柵の改良にも取り組まれています。

阿野さん:入社9年目。ホーム柵設置の際に必要となる電気ケーブルの配線や電気機器など電気に関する工事の設計を担当されています。

十三駅、神戸三宮駅に続く3駅目に春日野道駅が選ばれた理由は?


新しくホーム柵が設置された春日野道駅のホーム

現在、阪急電鉄の駅でホーム柵が設置されているのは十三駅(2018年度に供用開始)、神戸三宮駅(2020年度に供用開始)、春日野道駅(2022年度供用開始)の3駅です。

春日野道駅は、ホームの幅が2.5~3.8mと狭く、ホーム上のお客さまの安全を向上するため3番目の設置となったそうです。春日野道駅は、十三駅、神戸三宮駅とは違い、ホーム柵設置工事と共に、エレベーターを設置するなどのバリアフリー化も行われ、安全性と利便性の両方が向上したのも大きなポイントです。

ホーム柵設置で安全性が向上し、エレベーターの設置、新改札口の開設で利便性が高まる

それではさっそく、ホーム柵の設置と、バリアフリー化工事が終わった春日野道駅のビフォー&アフターから見ていきましょう。
※写真はいずれも神戸三宮方から大阪梅田方面を撮影したもの


Before ホーム柵設置前の春日野道駅ホーム


After ホーム柵設置後の春日野道駅ホーム

ホームが広く感じる。見通しのよい春日野道駅に変身。

おしらべ係もホーム柵設置後に訪れるのは初めてでしたが、第一印象は「ホーム柵が設置され同じ駅とは思えないほど見違えた!」でした。また、ホームは新しいタイルできれいに化粧され、スッキリと美しくなり、以前よりホームが広くなったようにさえ感じました。

また、ホーム柵の可動部分・ドアは化学強化ガラスになっており、以前と同じようにドアの向こうの景色を見ることもできます。ホーム柵があっても圧迫感がない工夫がされているのですね。

新たに西改札口が誕生。エレベーターも設置され便利に

次に、案内いただいたのは新しい改札口です。
春日野道駅にはこれまで東改札口(階段のみ)しかありませんでしたが、東改札口から西(神戸三宮方)に約200mのところに西改札口が新設されました。


高架下の空間を活かして新設された西改札口

西改札口からホームへは新設されたエレベーターで上がることができます。これまでホームに上がるには階段しかなかったため以前からエレベーター設置を希望する声も多かったそうです。


新設した11人乗りのエレベーター

電車の運行がない深夜の約3時間を利用して工事

ホーム柵設置工事について、一番気になるのは「夜間どのように工事をしたのか?」ということですよね。
杉山さんから「昼間は電車を運行しているため工事ができません。工事が行えるのは、最終列車から始発列車が走行するまでの約3時間、工事の準備と片付けも含めると限られた時間しか作業できません」と教えていただきました。
さらに春日野道駅はJRと道路の山手幹線に挟まれた位置にあり、駅のスペースを拡張したり、工事用のスペースを別の場所に確保する余裕もありませんでした。


山手幹線とJRに挟まれた春日野道駅

短い作業時間、限られたスペースなどの制約の中、どのように工事は進められたのでしょうか…。
おしらべ係では読者の皆様にも分かり易いよう「専門知識がなくても分かる。ホーム柵設置工事」と題して、工事の工程を4つに分けて教えていただくことにしました。

【1】列車停止位置を変更してエレベーターの設置スペースを確保

作業スペースがなければ作る!

春日野道駅の工事では最初に列車の停止位置の変更が行われました。2021年10月に大阪梅田方へ約13m、列車の停止位置を移動させたことで神戸三宮方にエレベーターを設置するスぺ―スをねん出し、エレベーター躯体(くたい)工事が実施されました。


列車の停止位置変更で生まれたスペースにエレベーターを設置


電車が通っていない時間帯に効率よく工事を進めます


西改札口を新設することに伴いホームの西端までホーム上家(うわや)を延長

工事中でも安全にホームを利用できる工夫

飯田さんは「春日野道駅では、ホーム幅が狭いことを考慮して、工事用の囲いや柵といった仮設材をなるべく使用せず、工事中もお客様に安全にホームをご利用いただけるよう工夫して整備を行いました」と言います。
時間と、スペースの制約がある中で工事していくのは想像しただけでも緊張しますね…。

【2】ホーム柵を設置するためにホームの改良工事を実施

ホーム上にタイル、ホーム下には電源ケーブルや制御ケーブルを敷設

次はホームの改良工事です。ホームに新たにタイルを設置し、ホームの高さを上げて車両との段差を小さくするバリアフリー化を実現するとともに、ホーム柵の重さに耐えうるホームに改良。さらに、ホーム柵の重さを軽くする改良にも取り組み、阪急電鉄で最初に設置した十三駅のホーム柵は1基あたり約700㎏の重量がありましたが、約450㎏に軽量化したことで、大幅なホームの補強が不要となりました。


ホーム柵を設置するため、ホーム先端部分に専用のタイルを設置


ホーム柵を設置する部分に鉄板やタイルを埋めて土台をつくる

ホーム柵を動かすための電力を確保するための工事

阿野さんから「ホーム柵、改札機、エレベーターなどの駅に新設された設備を動かすには電気が必要になります。西改札口付近に各設備が使用できる電気に変換するための変圧器を設置したり、ホーム柵に電気を送るための電源ケーブルや動作を指示する制御ケーブルを敷設する工事なども行いました」と説明いただきました。


ホームの下にホーム柵に必要な電気ケーブルなどを敷設する

【3】西宮車庫から春日野道駅まで電車でホーム柵を運搬

ホーム柵は阪急電車に乗って到着!


阪急電車に乗せて運ばれるホーム柵

ホーム柵はメーカーから前日に西宮車庫にトラックで運ばれてきました。そして当日、最終電車後の特別列車で春日野道駅まで運ばれてきました。

深夜に阪急電車で運ばれるホーム柵。整然と並ぶホーム柵とオリーブグリーンの座席の組み合わせはなかなか見ることができない様子です。


梱包材で保護されたホーム柵を丁寧に電車からホームへ降ろしていく様子


阪急電車から降ろしたホーム柵を次々と固定する

【4】試運転と動作確認

全てが整ったら、確認、調整、そして供用開始

工事の最後は、電車到着時にセンサーが正常に反応し、自動でホーム柵が開くかを確認する試運転と動作確認です。すべてのホーム柵が正しく作動することが確認できるまで、何度も微調整を繰り返していきます。


ホーム柵ごとに機械調整(据付調整)を行っていく

これで全工程が完了、いよいよ供用開始です。

4つの工程を追いましたが、お分かりいただけましたか?
春日野道駅の工事の事業開始から完成までかかった時間は約3年。担当者は何度も駅に足を運び、協力会社の方との打ち合わせや社内外との調整などに追われたそうです。
取材を通して、列車の停車位置が変更されたり、阪急電車でホーム柵が運ばれてくる様子など、知らなかったお話をたくさん聞くことができ、とても楽しい取材となりました。

現場での調整が続いた工事を振り返って…

最後に、春日野道駅のホーム柵設置、バリアフリー化工事で一番苦労した点をそれぞれお聞きしました。

飯田さんは、「社内だけでも多くの部署がかかわる工事です。他に行政の方、社外との調整をしながら、各工事を期間内に全てをやり切るのが一番大変でした。でも、とても貴重な経験をさせていただいたと思っています」とのこと。

飯田さんが担当したバリアフリー化工事の一つである「スキマモール」。電車とホームの隙間が小さくなり、電車にご乗車いただく際の安全性が向上したホームの端に注目してみてください。


阪急電鉄と協力会社とで共同開発したスキマモール。ホームの端に設置することで電車とホームのすきまを小さくすることができ、多くの鉄道事業者でも採用されている。

電気担当の阿野さんは「図面上ではうまくいっていたのに、現場ではうまくいかないということが多々ありました。最後までミリ単位の調整を続けていくという緊張感を乗り越えるのが大変でした」とお話いただきました。

ミリ単位の調整の例として、ホーム柵を見かけられた際には、上の写真で赤で囲ったホーム柵のドア部分にご注目ください!
電車が通過する際の風圧対策として、左右のドアで違う形状のへこみが付けられており、ドアが閉じると左右がしっかりかみ合う構造になっています。現場で実際に動作試験をすると、前後に微妙にずれたりしてドアがきっちり閉まらない…ということがあり、最後まで調整が続いたそうです。

最後は工事の全体管理をしている杉山さんです。「私は工事全体の大枠の部分を管理していますので、飯田さんや阿野さんをしっかりサポートする役割です。駅ごとに特徴があり、いつもと違った対応が必要になる部分は大変ですね。今後もホーム柵設置は続いていきますので、春日野道駅で得た知見をきちんと整理し、活かしていければと思います」とのことでした。

あると安心するホーム柵。これからも設置駅は増えていく!

以前の春日野道駅をご存じの方であれば、より安全な駅になったと感じていただいた方も多いのではないでしょうか。

今後も阪急電鉄の駅では、国土交通省が創設した「鉄道駅バリアフリー料金制度」を活用し、現行運賃に同料金を加算して収受し、バリアフリー設備の整備を加速していく予定です。

今回のおしらべ係を読んでいただき、もっと春日野道駅工事の事業概要を知りたいと思った方は、以下の特設サイトをぜひご覧ください。
https://www.hankyu.co.jp/story/kasuganomichi-barrier-free/

最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。阪急沿線おしらべ係では、阪急電鉄だけでなく、阪急沿線アプリで連携しているグループ会社(能勢電鉄、阪急バス、阪急タクシー)に対する質問も受け付けています。

みなさんも気になるものや知りたいことが見つかった時は、ぜひ「阪急沿線おしらべ係」まで質問をお寄せください。

こちらの記事もおすすめです!

阪急沿線おしらべ係の
最新記事をチェック!

「おしらべ係」のトッコが調査した記事を、定期的に追加しています。阪急沿線アプリのインストールや阪急沿線情報誌TOKKの公式X(旧Twitter)のフォローで、最新情報を簡単にいち早くチェックできます。ぜひご利用ください。

「おしらべ係」トッコ

「おしらべ係」のトッコが調査した記事を、定期的に追加しています。阪急沿線アプリのインストールや阪急沿線情報誌TOKKの公式X(旧Twitter)のフォローで、最新情報を簡単にいち早くチェックできます。ぜひご利用ください。

最新の記事一覧を見る