【阪急沿線おしらべ係 第41回】
阪急電車内の自動放送の声はどんな人が担当している?
【2022年10月配信】
このコーナーでは読者のみなさんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係が調査します。
今回は阪急電車の自動放送について、こんな質問が寄せられました。
『阪急電車内で自動で流れる車内アナウンスはどのような方が担当されているのでしょうか。日本語・英語の両方で気になっています』
この質問をいただいて調査したところ、この自動放送はプロのナレーターさんによるものであることがわかりました。今回はその貴重な録音現場へ潜入調査に出かけました!
今回、取材させていただいたのは阪急電鉄・運輸部の岸本ゆずかさん。岸本さんは阪急電鉄の駅サービスや車内放送に関する業務などを担当しておられます。
※新型コロナウイルス感染防止対策を行いながら、取材・撮影をしております。
自動放送になったきっかけと理由
「現在、阪急電車の車内で流れている自動放送は、すべてプロのナレーターさんにお願いしたものです」と岸本さん。
もともと阪急電車では車掌さんがアナウンスするスタイルで、関西の私鉄のなかでも自動放送の導入は遅かったですよね?
「そうですね。この自動放送は外国人のお客様の利便性を高めるため日本語だけでなく、英語でも実施しています。最初に導入したのは2020年3月の京都線で、次に2021年4月の神戸線、最後は2021年11月の宝塚線でした。海外からの観光のお客様が多い京都線から導入しました」。
どんな人が自動放送を担当しているの?
では、どのような経緯で今のナレーターが決まったのかお聞かせください。
「日本語の自動放送は下間都代子(しもつま とよこ)さん、英語はジャネット・マリー・バンティングさんというナレーターさんに担当いただいています。数々のナレーターさんの声を聞き比べ、実際に車内アナウンスをしていただいた音声を聞いて決まりました。現在担当していただいているお二人の声を聞いて、まさに『阪急電車をイメージする声!』と決まり、お願いすることになりました」と岸本さん。
録音する際に、あえて阪急電車らしさをお願いすることなどはあるのでしょうか。
「自動放送は、お客様にとって音声が邪魔にならず、そして聞きやすく、不快でないことを基準にしています。阪急電車らしさを出していただくようにとはお願いしていませんが、現在担当していただいているお二人はイメージ通りの声なので、安心してお任せしています」とのこと。
実際に録音風景の取材へ!
なんと、今回は特別に自動放送の録音現場に立ち会わせていただくことになりました。場所は大阪府内のあるスタジオです。
このスタジオは、名だたるプロのミュージシャンたちもレコーディングに利用するという本格的なスタジオ。阪急電車の自動放送は今までも、すべてこちらで録音されているとのこと。緊張しながら取材のタイミングを待ちます。
日本語のアナウンスを担当している下間 都代子(しもつま とよこ)さん
まずお話をお伺いできたのは、日本語のアナウンスを担当している下間さん。下間さんは他の鉄道会社のナレーションのほか、テレビでもナレーションのお仕事をされており「この声知ってる!」となった方も多いかもしれませんね。実際にお会いすると、笑顔の素敵なナレーターさんです。
「阪急電車を利用していたこともあり、自動放送を担当させていただくことが決まった時は本当にうれしかったです」。ただ、うれしさと同時に不安や心配もあったと言います。
「昔から阪急電車を利用していましたので、学生の頃は車掌さんの声をモノマネすることもあったんです。それだけに車掌さんの声から感じる温かさや肉声の良さも理解しています。ですので、自動放送が果たしてお客様に受け入れていただけるか不安でもありました」とのこと。
しかし、そんな心配も杞憂(きゆう)で、実際に自動放送が導入されてからは、「上品で聞き取りやすい」「聞き惚れる声で乗り過ごしてしまう」なんていう声もあるのだそうです。インタビューに答えてくださる下間さんの声も、自動放送のように落ち着いていて、心地いいんです。
そんな声の持ち主である下間さんですが、実際に自動放送を録音した時に心がけたことはあるのでしょうか。
「声のトーンを低めにして、聞き取りやすくなるように心がけました。車内の方に向かって話しかけるようなイメージですね」と下間さん。実は、他の鉄道会社でホームのアナウンスを担当されている下間さん。同じ鉄道のアナウンスでも、雑音の多いホームと電車内では、声の出し方も全く違うのだそうです。言われてみると環境が変われば、求められる声が変わるのも納得ですね。
自動放送で光るプロの技
「自動放送の音声は、1度録音をすると長く使うことが想定されています。あとから追加で録音して音声を繋ぐこともあるので、最初に無理をした声を出してもダメなんです。ナチュラルに阪急電車の車内アナウンスであることを、しっかり自分の中で意識して録音することで、次に録音する際に、前回の声を聞くだけで、同じトーンに合わせることができます」と下間さん。実はこれが一番難しいことで、“つぎはぎ感”を出さないことがプロの技なのだそう。電車に乗車された際には、その“つぎはぎ”を感じさせない下間さんのアナウンスの技にじっくり耳を傾けてみて。
なお、下間さんに自動放送でのお気に入りのナレーションをお聞きすると「自分が利用したことがある駅などは、どうしても思い入れもあるのでこだわってしまいます。よく聞いていただければ、それがわかるかもしれませんね。どの駅が思い入れがある駅かぜひ聞き比べて欲しいです」と下間さん。また難しいところをお聞きすると、淡路、富田、御影、園田、池田、箕面、曽根など読みが3文字以下の短い駅名は、イントネーションの置き方がとても難しいのだそうです。
様々な録音時のエピソードを教えてくれた下間さん。今後は、「この駅のナレーション、下間さんの気合が入ってるな」なんて思いながら、耳を澄まして電車に乗る楽しみも増えそうですね。
英語のアナウンスを担当しているのはジャネット・マリー・バンティングさん
次は、こちらも落ち着いた声が魅力のジャネット・マリー・バンティングさん。ジャネットさんはアメリカ出身で、大学卒業後に日本へ来てから、ナレーションのお仕事をはじめたのだそう。今では、公共施設のアナウンスやFMラジオでDJなどもされているプロのナレーターさんです。アメリカ人ですが、日本語はもちろん大阪弁も流暢(りゅうちょう)に話す、朗(ほが)らかなナレーターさんです。
実はジャネットさんも普段阪急電車を利用されているとのこと。「大阪の電車、なかでも自分が利用している阪急電車のナレーションをすることが念願だったので、阪急電車の自動放送を担当することが決まった時は本当にうれしくて、周囲の友人に自慢しました。友人も本当に喜んでくれたんです!」とうれしそうに話してくれました。
阪急電車の自動放送で大変だったこと
「阪急電車はすごく品がありますよね。乗車するたびにプチ旅行をしたような印象も。阪急電車の自動放送は、私の代表的なお仕事です」と誇らしげに話してくれました。ただ、国内でナレーションのお仕事を数々されているジャネットさんでも、阪急電車の自動放送のお仕事はとても大変だったのだそう。
「日本に来た時からずっと大阪で生活しています。そのせいか私の日本語はすべて大阪弁。日本の地名などのイントネーションが、どうしても大阪弁になってしまうんです」とジャネットさん。
とはいうものの、英語の発音でも新たな問題が。「『英語のイントネーションで駅名をナレーションすると、多くの日本人は違和感を感じる』と阪急電鉄の方に指摘をいただきました」。
それゆえ毎回録音にかなりの時間がかかってしまうのだそう。「自分では、いつでも正しく発音しているつもりでしたけど、そうじゃなかったみたい」と朗らかに笑うジャネットさん。数々のナレーションのお仕事をされているジャネットさんでも、ここまでイントネーションを指摘されることはなかったそうで、それだけ阪急電鉄はしっかり確認してくれていることを実感するし、ジャネットさんも新たなチャレンジとして毎回取り組んでいるのだそうです。
そんなジャネットさんに難しかったナレーションをお聞きすると、「やっぱり自分に馴染みがある駅名は、もともとの自分のイントネーションがあるので、それを修正するのに本当に時間がかかりました」とのこと。特に「十三駅なんて録音に30分ぐらいかかったんじゃないかな。私が学校の先生をしていた箕面もとても時間がかかりました」と様々なエピソードが飛び出します。
伝えたい、「Thank you for…」の気持ち
この阪急電車の自動放送を担当したことで、様々な人から「聞いたよ!」「すごいね」と声をかけられたり、連絡をもらうことも多くなったというジャネットさん。そんなジャネットさんのお気に入りのフレーズは「“Thank you for…”からはじまるフレーズは、アナウンスしていて気持ちが良いですね。言葉的にもよい意味ですし、阪急電鉄を代表してアナウンスしているようで、私もうれしくなります。自動放送を担当させていただいている私の気持ちでもあります」とのこと。
プロとして活躍しながらも、様々なところで耳にする英語の自動放送を聞いては、常に勉強しているというジャネットさん。乗車されている方へは「Thank you for riding…」という言葉を贈りたいですねとジャネットさんからメッセージをいただきました。
まとめ
今回の取材では、普段電車に乗って何気なく耳にしている自動放送が、細部に至るまでわかりやすく、聞きやすく、邪魔にならず、かつ心地いいのは、担当されているナレーターの方々の努力と阪急電車への想いが込められているからだと分かりました。また上品な声の自動放送のナレーターの方々が、実はとっても親しみやすい方々だったことも新たな発見でした。
みなさんも乗車された際は、「こんな想いがナレーションに込められているんだな」と思いながら自動放送を聞いてみてくださいね。そうすると、聞こえ方も今までと少し変わってくるかもしれません。
阪急電鉄の駅名はこちらをご覧ください。
https://www.hankyu.co.jp/station/info.html
最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。阪急沿線おしらべ係では、阪急電鉄だけでなく、阪急沿線アプリで連携しているグループ会社(能勢電鉄、阪急バス、阪急タクシー)に対する質問も受け付けています。
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