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【阪急沿線おしらべ係 第32回】塚口で全国シェア70%以上!「菰樽」の歴史を紐解く


写真提供/株式会社岸本吉二商店

【2022年1月配信】

読者の皆さんからお寄せいただいた、阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを、阪急沿線おしらべ係員のトッコが調査する「おしらべ係」。

2022年最初の「おしらべ係」は、新しい年の始まりということで、鏡開きに用いられる菰樽(こもだる)の記事をお届けします。

新春の鏡開きやお祝い事に欠かせない菰樽ですが、製造会社は国内に数社しか残っていません。そのうちの2社が塚口にあり、全国シェアの約70%以上※を占めているとのこと。

塚口が誇る伝統産業「菰樽づくり」の歴史を探るべく、早速調査に出かけました!

※榎本利明著『菰樽ものがたり:尼崎地域の樽巻き菰製造』(「菰樽ものがたり」発刊委員会).2012年.25p

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農家の副業だった菰づくり

取材に訪れたのは、2020年10月に開館した「尼崎市立歴史博物館」です。

まずは「菰樽」の発祥について、学芸員の楞野(かどの)さんにお話を伺いました。

「意外に思われるかもわかりませんが、尼崎では江戸時代以前から稲作が盛んで、特に北部を中心に良質な稲藁(いねわら)ができました。そのため農閑期の副業として、稲藁を用いた縄や菰などの加工品づくりも栄えたのです」

もともとは庶民の日常生活で使われていたという菰。それが酒樽に用いられるようになり、「菰樽」が誕生したのにはどのような背景があるのでしょうか。

江戸で評判の「下り酒」を運ぶために

「江戸時代、伊丹・池田・尼崎や西宮・灘などで作られた酒は『下り酒』※と呼ばれ、江戸で大変評判となりました。江戸へは初期の陸上輸送から中期以降は海上輸送に移り変わり、酒樽専用の樽廻船で輸送されるようになるのですが、船が揺れると酒樽同士がぶつかり、傷が付いてしまいます。そこで酒樽を保護するため、梱包材として菰が使われるようになり、『菰樽』が誕生しました」
※江戸時代に上方で生産され、江戸へ運ばれ消費された酒のこと。

海上輸送が可能になるまでは、馬で酒樽を運んでいたとのこと。樽廻船や「菰樽」のおかげで、大量の銘酒を効率よく、江戸へ届けることが可能になったんですね。

「当初は梱包材として使われていた菰ですが、他の銘柄と区別するため、また宣伝効果を狙うため、菰に商標を焼き付けたり、刷り付けたりする印菰(しるしごも)が作られるようになり、菰樽づくりはさらに発展しました」


印菰に使われていた焼き印(尼崎市立歴史博物館で展示中)

尼崎市立歴史博物館が所蔵している『摂州酒樽薦銘鑑(せっしゅうさかだるこもめいかん)』には、539種もの印菰が収録されており、酒造家たちが銘柄を目立たせるため競って意匠を工夫した様子が伺えます。


『摂州酒樽薦銘鑑』(尼崎市立歴史博物館でパネル展示中)

「尼崎市立歴史博物館の開館記念式典では、『摂州酒樽薦銘鑑』に収録されている、かつて尼崎城下で生産されていた銘柄を復刻した菰樽で鏡開きを行ったんですよ」と楞野さん。


開館記念式典で使用された菰樽

その菰樽を製作して同館に寄贈したのが、塚口で菰樽づくりを続ける2社のうちの1社、株式会社岸本吉二商店です。


写真提供/株式会社岸本吉二商店

そしてもう1社が、明治5年創業の株式会社矢野三藏商店。工場の一部でもある母屋は、尼崎市の都市美形成建築物に指定されています。


写真提供/株式会社矢野三藏商店

日本遺産の構成文化財にも認定された「菰樽づくり技術」

両社が受け継いできた「菰樽づくり技術」は、令和2年、神戸市・尼崎市・西宮市・芦屋市・伊丹市の5市が申請し認定された日本遺産『「伊丹諸白」と「灘の生一本」 下り酒が生んだ銘醸地、伊丹と灘五郷』の構成文化財となっています。

日本が誇る尼崎市塚口の伝統産業「菰樽づくり」。江戸時代から今日まで続いているのは、伝統を守りつつ、時代に合わせて新しい素材や技術を取り入れてきた企業努力があってこそです。

現在も菰の素材として稲藁は使用されていますが、ポリプロピレンが主流となり、印菰も型紙を使った手作業による刷り込みから、スクリーン印刷へと進化しています。


写真提供/株式会社岸本吉二商店

お祝い事に欠かせない「菰樽」の歴史に触れたことで、ニュースなどで鏡開きの映像を見るたび「塚口で生産された菰樽かもしれない」と興味が湧き、貴重な取材となりました。

2022年2月1日には、尼崎市立歴史博物館で菰樽づくりの体験イベント(事前申込制)も行われる予定ですので、興味のある方はぜひ、下記のサイトをチェックしてみてくださいね。
https://www.city.amagasaki.hyogo.jp/manabu/kanko/1021942/index.html(尼崎市公式ホームページ)
https://jh-itamitonadagogo.jp/amagasaki01(講座の詳細ページ)
※新型コロナウイルス感染症対策の影響などにより、内容が変更または中止となる場合がございますので予めご了承ください。

また、菰樽はオンラインでの購入も可能で、個人でも使いやすいミニサイズや、手頃なディスプレイ用の商品なども多彩にラインアップされています。
https://www.komodaru.co.jp/(株式会社岸本吉二商店)
http://www.kagamihiraki.co.jp/(株式会社矢野三藏商店)

家族や友人など身近な人の慶事を、「菰樽」でお祝いするのも素敵な思い出になりそうですね。