【阪急沿線おしらべ係 第13回】
あの黒い阪急電車は何?
【2020年2月配信】
阪急沿線でふと見つけた「気になるもの」や「面白いもの」などを調査する「おしらべ係」。
前回は大阪大学の阪大坂で繰り広げられる真冬の熱いイベント「ゑびす男選び」の模様をお送りしました。
今回のテーマは阪急電車。こんな目撃情報が寄せられました。
正雀車庫に黒い阪急電車がよく停まっています。あれは何?
阪急電車のカラーと言えば、小豆のような落ち着いた色と光沢が美しい「マルーンカラー」ですよね。
それなのに、黒い阪急電車。
長年守り続けてきたマルーンカラーが、変わるなんてことがあるのでしょうか?
見間違いでないとすれば、塗装の途中か?もしくは新車両か?
これは早速、確認しに行ってみましょう!!
本当にあった、黒い阪急電車
まずは担当者へ取材を申し込んでみると、「西宮車庫へ来てください」とのこと。
今回案内いただいたのは、西宮車庫に勤務する、検車課の設備担当総括主任・井上さんです。
背が高くてダンディな井上さん。
広大な敷地の西宮車庫の一番奥まで歩いていくと...
「これですね」
目の前には、真っ黒な阪急電車が一両。
窓から差し込む光を浴びて、ひっそりと佇んでいました。
黒い阪急電車、何のためにある?
黒い阪急電車の外観を観察してみると、側面の窓が一切ありません。
また、扉の大きさが、片方は一人しか通れないくらい狭く、もう片方は大きいような。
そして正面には、黄色の帯と、方向幕に「救援」の文字。
「これは、救援車という車両です。
脱線した車両を復旧する際に必要な機材が中に積まれているんです」
救援車。そんな車両があるんですね。
救援車は、客車として使っていた車両を改造したもので、大きい扉は機材の出し入れのため間口を広げており、狭い扉は客車時代の名残り。
自走できないため、運転台と電動機が装備された車両と連結して、緊急時に現場へ駆けつけていました。
しかし、いち早く現場へ到着するには、線路上にいる車両を何本も移動させて救援車を出動させるよりも、トラックに機材を乗せて道路で移動する方が早い。
そのため現在は「機材置き場」として利用されているのです。
中を見せてもらうと...
ロープやヘルメットなど作業に必要な道具が、決められた場所にきれいに置かれています。
天井のレールが車両の外まで延びて、滑車を使って重量のある機材の積み下ろしが可能に。
積まれていた重そうな機材たち。
救援車は阪急全線で計4両あり、西宮、平井、正雀、桂の4つの車庫に1両ずつ配備されています。
西宮車庫は屋根付きの建物の中に置かれていますが、正雀車庫は救援車が屋外に置かれているため、質問いただいた方が見つけられたんですね。
「脱線復旧訓練」を見学
今回、西宮車庫に呼ばれたのは、救援車に積まれている機材を使う「脱線復旧訓練」を行っているからでした。
脱線復旧訓練は、脱線が起きた際に的確・迅速な対応を行うための訓練で、年2~4回実施されています。
今回の訓練は、「塚口~園田駅の間の踏切で、上り通勤特急が踏切内東側から侵入した自動車と接触し、大阪方面の先頭車両が西側に脱線した」という想定。
先発隊がまず現場へ駆けつけ、事故の状況をスマートフォンで事務所に残るメンバーに共有します。
この伝達業務も、実際の現場でスムーズに行うための大切な訓練です。
その後、後発隊が救援車に積まれた機材を選別して現場へ急行。
今回の訓練は、機材操作の習熟が目的の一つであることから、車両を「脱線させる」ところからスタートします。
車両の脱線復旧に使うのが「脱線復旧装置」というもの。
脱線復旧装置とは、油圧ジャッキで車両を持ち上げ、そのまま左右に移動させて線路上に置き直す機械です。
「脱線復旧作業で一番重要なのが、これから行う、脱線復旧装置を設置するための土台作りなんです」
と井上さん。
脱線復旧装置で車両を移動させる際、土台には約20トンの荷重がかかるそう。
作業中に装置が沈んだりズレたりしては、うまく車両が持ち上がらないうえ、脱線を復旧させるどころか二次災害が起こる可能性も。だから、土台を頑丈に固めるのが最も重要な作業なのです。
まずは線路の石をよけて、水平器で確認しながら「かまし木」を置き、
このあと取り付ける、車体を上下左右に動かすジャッキの基礎になる「ブリッジ」を乗せます。
銀色の鉄板のようなものが「ブリッジ」で、重さは約70kg。さらに小さな木片を隙間に詰めて、水平を安定させます。
この土台作りだけで、40-50分程。簡単そうに見えてこれがなかなか難しそう。
「一回叩いてみよう」
「線の真ん中に!」
と声を掛け合いながら、何度も何度も水平を確認し土台を固めていきます。
冷静で的確な判断と、強力なチームワークが必要です。
次に土台に、車体を上げ下げするジャッキと、左右に動かすジャッキをセットしたら
いよいよ持ち上げ。
作業の指揮をとる責任者の指示によって、操作者が列車の正面に置いたコントローラーで、少しずつジャッキを上昇させます。
正面に吊り下げた水準器を頼りに、真っすぐ上がっているか確認。
車両の左右からもジャッキがズレていないか確認。土台に不安定なところがあったら、木片を詰めて安定性を確保します。
次に、左右に動くジャッキの力で車両を動かして、脱線した状態に。
この間、記録係は、作業時間や何センチ車体を上昇させたか等、細かく記録をとり、事務所の待機スタッフへ逐一報告を行います。
そして今度は逆の手順で車両をレールへ戻す作業。
左右のバランスが崩れて少し右に傾くと、車体や土台の状況を様々な角度から確認して共有し、次の動きを冷静に判断。
確実な手順で復旧作業を進めていきます。
現場の空気がちょっと変わるのは、車輪がレールに向かって降下する時。
車輪とレールの位置が正確に合わないとレールに納まらないので、これまで以上に全員の意識が集中します。
少し下げては止めて確認、再び下げては止めて確認を繰り返し、掛け合う声も大きくなっていきます。
無事、レールに戻った車輪。
安堵するのもつかの間、今度は別のスタッフが機械を操作して使い方や感覚を覚えたり、手順を復習したり、繰り返し訓練を続けます。
みなさん、技術を身に付けようと積極的。
最後のミーティングでは作業の改善点を全員で話し合い、約5時間に及ぶ訓練が終わりました。
まとめ
黒い阪急電車をきっかけに、こうした訓練を通じて現場のスタッフが技術の向上を図っていることを知った今回。
万が一の事態はもちろんのこと、普段から多くのスタッフの努力に支えられ、安心して電車に乗ることができていることを実感しました。
最後まで記事をお読みいただきありがとうございます。阪急沿線おしらべ係では、阪急電鉄だけでなく、阪急沿線アプリで連携しているグループ会社(能勢電鉄、阪急バス、阪急タクシー)に対する質問も受け付けています。
みなさんも気になるものや知りたいことが見つかった時は、ぜひ「阪急沿線おしらべ係」まで質問をお寄せください。
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